虹の検事局・後編

□第18話(5P)
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 じっと見られているのに気づいてか、仁菜が御剣に微笑むと、男はさらに彼女に顔を近づけて話し出した。
「そしたら裁判長がさ、小槌をどうしたと思う?」
 男は、御剣や新任女性にも形ばかりの視線を向けるが、関心が仁菜にしかないのは明らかだ。彼女も、佳境に入った男の話を、笑顔を浮かべて聞き入っている。

「‥‥彼、面白い人でしょう? カッコイイし、同期の中でも人気だったんですよ。夜芽さんは違う研修所だったから、2人は初対面ですけど」新任女性が、御剣に向かって言う。
「うム」
「もちろん、御剣検事ほどカッコよくも、人気でもないですけどね」
 彼女は小さい声でそう言って、うふふっと笑う。

 その後も、彼女は隣からいろいろと話しかけて来るが、御剣は生返事しか返せない。しかし勧められるまま、やたらと酒をおかわりしてしまっていた。

「で、僕が、小槌に罪はない!!って叫んだその時だよ‥‥‥」
 弁護士は、さらに話に乗ってきて、大げさな身振り手振りを加えだした。仁菜もそれが面白いのか、酒が回ってきたせいか、楽しそうに笑う。男の手が、仁菜の体の近くを何度も通過する。一度など、しらじらしく偶然ぶつけたふりをして、彼女の肩のあたりに触れた。
 仁菜は、何も気にせず笑っている。

「なんだか、あの2人、いい感じですね」
 新任女性が体を寄せてささやくのを、御剣は、反射的にギロッと鋭い眼光で睨んだ。女性は、浮かべていた笑顔をひっこめ、怯えた目で体を離した。
 御剣は、無意識に拳を握りしめ、男までのリーチを測っている自分に気づく。
(マズイ。このままでは、私はこの男を‥‥‥)

 彼はハタとひらめき席を立つと、しばらくしてから戻った。

 数分後、御剣の胸ポケットの携帯が高らかに鳴った。3人は、その音に驚くが、御剣は平然として「失礼」と言って電話に出る。
「イトノコギリ刑事か、どうした」
 『御剣検事に、5分後にかけろと言われてかけたッス』電話の向こうで刑事の声がする。
「なんだと?」
 『忘れたッスか』
「それは緊急事態だな」
 『へ? いったい誰と話してるッスか?』
「了解した。すぐそちらへ向かう」
 『べ、べつに来なくっていいッスよー!』
「うム、わかった。夜芽検事もだな」
 彼は、携帯をピッと切断してポケットに入れた。仁菜はびっくりして御剣を見ている。



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