虹の検事局・後編

□第21話(5P)
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 やがて、正面のステージで、検事局長の挨拶が始まった。つづいて、乾杯も終わったあと、司会の男性が言う。
「それではいよいよ、本年の検事・オブ・ザ・イヤーの発表です。これまで年明けの式典で授与されておりましたが、審査時期が早まり、このパーティにて表彰されることになっております!」

 会場から拍手が起こる。
(御剣検事の執務室にも盾がある、あの賞だ)
 彼女は興味をひかれる。ここで発表されるんだ‥‥自分のような新任には、まったく関係ない話なので知らなかった。

「それでは、今年の受賞者を発表させていただきます。ほんらい、プレゼンターは、前年もしくは前前年の受賞者の方にお願いするのですが、いずれも海外研修中です。そこで今回は、前前前年受賞の、御剣怜侍上級検事に、プレゼンターをお願いいたします! 御剣検事、壇上にどうぞ!」

 会場から、さらに大きな拍手が起きる。仁菜は、手にしていた皿を、あわてて近くのテーブルに置いた。「すみません」とまわりに声をかけながら、ステージがよく見える前のほうに移動する。

 人波の隙間から、彼が見えた。長い足をさばいて、壇上への階段を登って行くところだった。胸元はいつものヒラヒラだが、黒いタキシードを着ている。赤いスーツじゃなかったのなら、ますます見つかるはずないな、と彼女は思う。

 隣の女性たちが、ステージを眺めながら話している。
「御剣検事って、ほんとカッコいいねー」
「黒もすごく似合う」
「彼女いないって本当なの?」
「そういう噂だけど、どうなんだろう」

 まわりでそう囁かれながら、壇上でライトを当てられている彼は、仁菜にはとても遠い人にみえる。付き合ってる女性も、本当はいるのかもしれない。隠そうと思えばいくらでも隠せるだろうし‥‥‥‥。

 御剣は、ステージ中央に設置されたマイクの前に立ち、司会者から渡された白い紙を開いた。
「それでは、発表させていただく。今年の受賞者は‥‥‥」
 御剣の声と紙を開く音が、マイクを通して会場内に響く。
「ム‥‥‥」彼が一瞬沈黙するので、会場が静まり返った。「‥‥‥‥私だ」
 その言葉に、会場がどっと沸く。
 


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