虹の検事局・後編

□第21話(5P)
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 考え事をしていた仁菜は、人が近づいて来たことに気づかなかった。すぐそばまできた黒い人影の、窓に映ったその顔を見て、はっとして振り返る。

「御剣検事!」
 近くにいた男女がチラチラ、御剣を見る。ただでさえ、検事局一、二の有名人で、しかも目を引く容姿なのに、さっきまで壇上でライトを当てられていた人だから当然だ。

 御剣は、仁菜の受賞祝いの言葉を聞き流して、言う。
「予想通りの場所にいたな。会場後方の隅」
「えっ」
「宿泊研修のパーティの時と、同じ位置だ」彼はわずかに口元をゆるめる。
(あの時、見られてたんだ‥・・)仁菜は驚く。こっちなんかまったく見ていないと思っていたのに。

「あの‥‥‥パーティは苦手だから‥‥」彼女は急に恥ずかしくなって窓の外を見る。

「‥‥‥私もだ」
 一緒に窓の外を見ながら御剣が言う。「抜け出すか」

「えっ?」仁菜はドキンとして御剣の横顔を見上げる。「ま、またあ。冗談ですよね。えへ」
 一瞬でも真に受けたことが恥ずかしくて、彼女は照れ笑いした。

「いや、冗談ではない。ここは退屈だ」
 御剣は落ち着いた様子で言う。彼が本気なのだと思って、仁菜の脈が速くなる。

「か、狩魔検事は、いいんですか?」
「メイ? なぜだろうか?」彼女を見おろす目は、本当に不思議そうだ。
「‥‥‥一緒にいなくていいのかなと」
 なんとなくこういうパーティでは一緒にいるのだという気がしていた。研修のパーティで2人でずっと話しているのを見たからかな。

「彼女も来ているはずだが、そういえば、今日は見ていないな。あれで結構な人見知りだから、もう帰ったのかもしれない」
「そうなんですか」仁菜はこれまで、2人の関係が気になって仕方なかった。今は‥‥‥よくわからなくなった。

「行くか?」彼は少しだけ楽しそうな目で仁菜を見る。
「はい」

 彼は人々のあいだを抜け、先に歩いて行った。仁菜はその背を追う。



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