虹の検事局・後編

□第22話(5P)
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 御剣は紙袋に入っていた箱から検事・オブ・ザ・イヤーの盾を取り出すと、窓際の本棚の、1つめの盾の横に並べて置いた。
「あの、盾‥‥‥見せてもらってもいいですか?」
 ソファから立ち上がって仁菜が聞くと、彼は振り返って、どうぞ、という顔をする。

 仁菜が窓際に近づくと、手に持って渡してくれる。両手で持ちたくなるほど、ずっしりと重たかった。台座の底には金属製のプレートが貼ってあって、歴代の受賞者の名が刻まれていた。狩魔豪の名前がいくつも並んでいる。
「あの方も何回も受賞されたんですね」
「そうだな」
 御剣の表情は全く変わらない。彼は、やっぱり過去の事は気にしてないのだろうか‥‥‥と仁菜は思う。

 ワインカラーのカーテン越しに夜景が見渡せた。彼女には、御剣の執務室に、研修時代のいろんな思い出がある。この棚でも本や資料をよく探した。御剣の座る椅子のすぐ近くだから、どきどきしたものだ。
 持っていた盾を、棚に置きながら、彼女は思わず言った。
「執務室‥‥‥研修の時みたいに来れないからちょっと寂しいです」

 隣に立つ御剣は、静かな目で仁菜を見おろす。黒い礼服の彼は、見慣れなくて、彼女はどうしようもなく胸が高鳴る。
「いつでも来ていいと言ったはずだが」
「は、はい」
 そう言われたのは、研修最後の日だった。もちろん覚えている。覚えているけど‥‥‥自分達みたいな新任にとって御剣がどんなに遠い存在か、彼はわかってない。用事があったとしても来る時は緊張して大変なのに。

「でも用もないのになかなか来れないですよ」
 近くにいて目線を合わせていると、あまりにも息詰まって苦しくなってしまうので、仁菜はそわそわとソファに戻りながら言った。

 御剣は、仁菜がソファに腰を下ろした頃に、口を開いた。
「紅茶を飲みにくればいい」
「えっ?」



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