虹の検事局・後編

□第24話(6P)
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 数分後、御剣は、亀代から送られてきたメールを確認したあと、執務椅子に深く掛けたまま腕組みをして、目を閉じた。人差し指でゆっくり片腕を叩きながら思索する。彼の背にある窓には、夕日の最後の一筋が消え去ったばかりの空が広がっていた。
 彼は、しばらくして目を開くと、もう一度、糸鋸刑事に電話して細かい指示を与えてから、駐車場に向かった。

 * * * *
 

 御剣は、古びた無人のビルの階段を上り、指定された部屋の扉を叩いた。小さな窓しかない廊下にはもうほとんど光がない。
「御剣だ」
 そう言って、もう一度強く叩くと、扉が鈍い音を立てて開き、チェーンをかけた隙間から亀代の顔が覗いた。

「バカな動きはしないでね」亀代は首から下げた、小さな機械を示す。
「わかっている」
 亀代は用心深くあたりを見回してから、チェーンを外し、御剣を室内に入れると、また急いで扉を閉めた。

 中は、思ったより狭い一室で、しばらく前まで事務所として使われていたのか、数台の机とキャビネットがまだ整然と並んでいた。仁菜は、壁に固定されたスチール棚に拘束されて、床に座らされている。御剣を認めて、憔悴した目に申し訳なさそうな表情を浮かべるのを見て、彼は大丈夫だというようにうなずいた。

 御剣は、一瞬にしてすべてを見抜くいつもの目で彼女の状態を確かめ、手荒な扱いは受けていないと判断して安堵する。しかし手首には、箱型の装置から伸びた金属のコードが巻かれていた。装置は、亀代が独自に開発した、致死電流を流せるという電圧増幅器で、そのスイッチであるリモコンは亀代の首から下がっている。この2つの写真を、御剣はメールで受け取っていた。

 亀代は、御剣も、仁菜から少し離れたもう一つのスチール棚に、彼女と同じように、オモチャながら頑丈な手錠を使って拘束した。
 なすがままにされながら、壁のコンセントにつながれた電圧増幅器を眺め、御剣は言う。
「このビルは、送電されていないはずだが?」
「フフ。そのへんはボクには初歩的なことなんだよ、ミツルギ君。天井の蛍光灯が見えないの?」亀代はバカにしたように笑う。

 御剣は、まばらに点灯している照明に当然気づいていた。いくつかの蛍光管がジージーと音を立てて点いたり消えたりしている。薄汚れたブラインドの隙間からのぞく窓の外は、もう夕闇が濃くなっていた。



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