SIDE STORIES

□ACTRESS(4P)
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『面倒な仕事を受けてしまった(^∇^)』
 御剣は、絵文字や顔文字の使い方も教えられていた。が、手先が不器用なので時々押し間違えてしまう。


 御剣がテレビ局に足を踏み入れたのは、記憶する限り初めてだった。司法の世界とはまったく違う雰囲気と、そこにいる人々の気配。
 始まる前に、プロデューサーから同じ番組に出演する人々を紹介された。メインキャスターの中年男性、それと、サブキャスターの若い女性。彼女は、女優を本業とする、今をトキメく有名人だった。
 御剣は、彼女の顔に見覚えがあるような気がしたが、名前まではわからなかった。完璧な化粧を施され、まぶしいほどの照明の中で微笑む女優兼キャスターは、御剣にはまるでよくできた人形のようにすら見えた。

****

 キャスターたちと並んでスタジオのデスクについた御剣は、生番組がスタートすると、淡々と必要なことを語った。法廷と同じように、明解な論理展開で検察の現状と反省、将来あるべき姿を述べる。誰もが信頼を寄せそうな、堂々とした口調。

(この男、若いようだが、やるな)
 メインキャスターの男性は思う。おそらく多くの視聴者は、この理知的で、整った面立ちの青年検事の言うことに納得するだろうし、検察の今後に期待するだろう。台本もなく、これだけの言説が可能な男を、彼はあまり知らなかった。

(いつも素人サンがここに座ると、緊張してガチガチになったり震えたりするのに、この人は全然平気そう)
 サブキャスターの女優も、御剣の様子を観察しながら思う。その上、美男美女が多いマスコミ界でも遜色ない美形だ。独身と紹介されたから、視聴者からファンレターが相当数きそうだ。

 CMの合間に、彼女は思わず御剣に声をかけた。
「すごいですね。まったく緊張されてなくて」
「仕事ではあまり緊張しないのです」
 彼はちらと横目で女優を見て答える。
「これだけの人に見られているのに?」
 スタジオは、生放送のカメラが何台も取り囲んでいる上に、スタッフなど30名あまりがまわりから注視していた。

「法廷も同じですから」
 今度は視線も向けず、手元の資料に目を落としたまま御剣は言った。
 なんというクールさ。彼女は、ライトに照らされた彼の端正な横顔を見つめながら、自分の狩猟本能が激しく刺激されるのを感じた。



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