SIDE STORIES
□DISTANCE[2/3] (3P)
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「ハッ!」彼は、呆れきったような声を上げた。「あんなことが私の裁判に影響するとでも? 思い上がるな」
強い語気に、仁菜の目には涙が滲んでくる。
「迷惑ばかりかける私より、もっと、ほ、ほかの人がいいんじゃないかと‥‥‥」
「迷惑などと言ったことが一度でもあるか?!」
御剣の声が尖ってくる。
「でも‥‥‥そう思ってますよね‥‥?」
「勝手に人の気持ちを決めつけるなッ!!!」
御剣はついに怒鳴った。
仁菜も、うつむいて泣き出した。
「でも、私は、こうやって御剣検事を怒らせてしまう‥‥‥」
「‥‥‥‥」
「‥‥お、怒らせない人のほうが‥‥いいと思います‥‥‥。もっと御剣検事の気持ちを‥‥‥わかってあげられる人が‥‥‥」彼女は嗚咽しながら言った。
「本気で言っているのか?」
「私じゃきっとダメです‥‥‥み、御剣検事は、私のことを、いつかきっと嫌いになる‥‥‥それが‥‥怖いんです」
彼女は顔を上げた。御剣を見つめる目から涙が幾筋も頬を伝う。「付き合っているのが怖い‥‥‥」
その言葉に、御剣の顔色が変わる。一瞬苦しげに顔を歪め、それからすっと無表情になった。仁菜の目を見つめ、沈黙する。
そして言った。
「わかった。別れよう」
彼はテーブルに仁菜の手紙を置いたまま、それ以上何も言わず部屋を出て行った。
御剣が初めて口にした別れという言葉、その重みを、彼女は今さらながら思い知らされた。もっと違う言葉で伝えたいことが、たくさんあったような気がする。‥‥‥でも、もう遅い。もう歯車は動き出してしまった‥‥‥。
翌日、彼女は出勤し、夜遅くまで必死に働いた。働いている間だけは、何も考えなくて済む。しかし家に帰った途端、涙があふれてしまうのは、止めることができなかった。