text(平浦)
□そんな馬鹿な…
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『なんやて?』
平子が、怪訝な顔でひよ里に聞き返す。
『何度でもゆーたるわ!!シンジ。おまえ
、さっきから喜助が喜助がってうっさいねん!!好きやからっておっさんののろけなんかキショイわ!!』
ビシッと平子の鼻先を指差した。
言われた平子はポカンとして、持っていたカップを落としてしまう。
おっと、と、ローズがそれをキャッチして、
『ひよ里〜それ、言わないってこの前話したよね?』
と困り顔でひよ里をみた。
『知らん!!こいつの色ボケた顔見てるとイライラすんねんもん!!おまえらかて、いい加減まどろっこしいーて見てられんやろ!!』
ひよ里はもう我慢できないと言うように
立ち上がって抗議する。
『ひよ里〜、せめて飯の片付けしてからにしろよ〜。見ろよシンジの顔。固まってんじゃん。今日の片付けシンジなんだぜ。』
ラブが自分の食器を流しに入れて戻ってきて言う。
今は昼時、用で出掛けているハッチとましろ以外のメンバーでランチをとっていた。めいめい食後のコーヒーなどに移ろうかというところで、平子が午前中に行った浦原商店の話を始めたのでみんなでなんとなく聞いていた。
浦原商店は、浦原喜助が営んでいる雑貨屋だが、裏では様々なあやしいものが売られていてもうすでに何屋なのかわからない。
尸魂界から隠れている身のメンバーにとってはなくてはならない店であり、大恩ある浦原喜助は重要な人物であった。
喜助が隊長に就任して、尸魂界から追放され、現在に至るまで五十年ほどの付き合いになる。
現世に来てから内なる虚の御しかたや、義骸についてや生活のあらゆる場面で喜助は手を貸してくれた。
本人はへらへらしてつかみ所の無い人物だが、経緯が経緯なだけにメンバーにも信頼が厚かった。
中でも平子は何かと自分と似ている感じがする喜助に親近感を覚えたのか、死神時代から仲良くしていた。
時間が経ち、落ちついてからも毎日のように平子は浦原商店へ通っている。
そういう訳で、平子の『今日喜助がな…』はここ数年で、口癖のようになっていた。
初めは他のメンバーも特に気にも止めていなかったが、喜助の言うことしたことに一喜一憂する平子を毎日見てるうちに、『これって恋する乙女じゃん』=『平子は喜助が好き』という暗黙の了解が仲間内に出来ていた。
ただ、平子自身が、それに気がついていなかったので黙って見守るようにしていたのだった。
それを最近気がついたひよ里が、数ヶ月も我慢できず、今言ってしまった。
『ええやん、ひよ里が言わんかったらウチがゆうてたわ。鈍感にもほどがあるわ』
リサがエロ本を閉じて平子の顔をみる。
平子は訳がわからんといった感じでリサを見返した。
『ええか、シンジ。ウチらの言ってることわからんかったら、喜助のこと話してる時や考えた時の自分の顔鏡でみてみい。ホレ。』
リサが手鏡を渡し、
『もう顔がエロくてようみてられんで』
と、言って自室に戻っていった。
横目でそれを見ていたひよ里が言う。
『ウチははっきりせんのは嫌いや。好きなら好きで、はっきりせえ!!』
詰め寄るひよ里をラブが押さえた。
『ひよ里〜、男はそういうとこナイーブなんだ、あんまり問い詰めんなよ』
『はあっ!?そんなん知るか!!好きか嫌いか、簡単なことやろ!!はなせっ、ラブっ』
ひよ里がバタバタ暴れた。
『・・・喜助は男やで、』
手鏡を見たままうつむいていた平子がぽつりと言った。
『シンジ…?』
ローズが声をかけると、平子はふらりと立ち上がり、
『ちょお、気分よおないから寝てくる』
と、自室に下がってしまった。
残ったメンバーが、顔を見合わせる。
『あ〜、もう、ひよ里〜』
ローズがまた困り顔でひよ里をみる。
『なんや!』
『言わないで見守ってやろうってゆったじゃないか』
『ウチの性にあわん!!』
ひよ里がそっぽを向いてソファーに座り込む。
『まあ、ローズ、あんまりひよ里ばっか責めんな。今日のあの様子じゃ自分で気がつくのも時間の問題だったろ』
ラブがコーヒーを入れながら話し出す。
『いつものシンジなら、あんなこと言われれば倍もぎゃーぎゃー言い返すのに、至極まともに…』
『『喜助は男やで、』』
三人で繰り返す。
『重症だね』
『難儀なシンジのことだからどうなることか…』
『喜助にチクったれや』
『ひよ里、それはさすがに…』
『でも、あれじゃ、喜助だって気がついてるんじゃない?』
『それはないわ、あいつけっこう鈍感やねんぞ。特に自分のことにはな』
『おまえら、人の恋路に口だしてるとろくなことねえぞ』
黙っていた拳西が、三人をたしなめる。
三人はまた顔を見合わせて
『難儀なやっちゃな〜』
と言って、片付けをはじめた。