text(平浦)
□ただ、そばに居たくて(だからって〜の続き)
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『最近、平子サンこないっスねぇ』
縁側で1人空を見上げて浦原が呟く。
一ヶ月ほど前から平子は店にやって来なくなった。
それまではあいても一週間ほど、来るときは毎日のように来ていたのに。
(平子サンがいないと寂しいっスね…)
なんだかせつなくなるのは季節のせいではない。と最近気がついた。
自分の気持ちには気がついたが、別段言う必要も感じず、平子には伝えてもいない。
言わなくとも頻繁に店に通ってくるので、会いたいと思う前に会えたし、他の雑務に追われることも多かった。
『こんなことなら言っちゃえば良かったっスかねぇ…』
平子に会わないことが、こんなに自分の生活に色をなくすことだとは思っていなかった。
いくら互いに特別仲良くなったとはいえ、相手は男、まさか恋人にしたいなどとは間違いなく思っていないだろう。
振られた上に、避けられたりするのは嫌だった。
一緒にいられるだけで幸せだったから、だから黙っていたのだ。
『喜助どの、お客人ですぞ』
箒で表を掃いていたテッサイの声が聞こえた。
(平子サン!?)
慌てて店まで出てみるとリサがいた。
『リサさんか、珍しいっすね。どうしたんスか?』
『なんや、シンジやのうて悪かったな』
とリサが言ったので、珍しく喜助の方が動揺した。
(がっかりしたように見えたかな)
『いえ、そんな、り、リサさん、は、あ、エロ本っすか!?』
『アホか!!ウチかて日がな一日エロ本見てるわけやないわ!!』
見てるでしょとツッコミたかったが、用もないのにリサがくることはないので、下手は言わず浦原は曖昧にへへっと笑った。
『まあええわ。それより喜助に聞きたいことあるんやけど。』
リサが店内を物色しながら言った。
『なんスか?』
リサからの改まっての質問に少し浦原はひいていた、が
『好きな人、おる?』
というまさかの質問に、絶句してしまった。
(らしくない質問だ…まさかボクのこと、)
何も答えない浦原にリサが言う。
『変な顔しなや。ウチがあんたんこと好きなわけやないからな!!安心しい』
リサのこの言葉に喜助の顔が変わる。
『リサさん?』
浦原のトーンが変わったのを感じ、リサが少したじろぐ。
『な・・』
『ウチがって、お仲間の誰かがアタシのこと好きって、ことですか!?
』
リサの腕をがっちり掴む。
あまりの食い付きように、リサは驚く。
(な、なんや、もしかして喜助もウチらの中に好きなんおるんか!?あ、まちや、うちはハズレたってことは白かひよ里のどちらかゆうことか?シンジゆうことはないやろ…な)
と、色々考えているうちに、
『リサさん!!!!』
浦原の顔がくっつきそうなほど近くまできていた。
と、その時
『き、喜助ぇ〜、お、おるかあ〜』
(シンジ!!めっちゃ緊張しとる!!っやない、まずいで、この状況…)
ゆっくりリサは平子の方を見る。
案の定、平子は固まってこちらを凝視している。
『ひ、平子サン…、お久し振りっス…』
喜助の顔がひきつっている。
『わ、わるっ…』
平子は踵を反して店をでていった。
『シンジ!!』とリサが叫ぶと同時に浦原が叫んだ。
『ひっ、平子サン!!、ち、違うんです!!』
リサが目を丸くする。
浦原の普段とは違う真剣な表情に確信する。親しい友人だ、別段女に迫ってるのを慌て弁解する必要はない。
(信じられへん、両思いや)
『喜助、あんたシンジのこと好きなんか?』
ダメ押しにストレートに聞いてみる。
『ばれちゃいましたね。でも平子サンには内緒っスよ、嫌われたくないので。』
浦原がうつむき加減でポリポリと鼻の頭をかく。
『喜助』
『なんスか?』
やっと訪れた平子を逃したこと、きっと平子が誤解したことが浦原には辛かった。
(もう、ほんとに駄目だろうなー。告白すらできないなんて)
『今夜、話の続きするで。庭に居り。絶対やで』
項垂れて溜め息をついた浦原に、リサは言い棄てて、あっという間に店を出ていった。
『怖いっスね…』
と、リサを見送りながら
(もう、今日は来てくれないだろうか)
と平子のことばかり思ってしまうのだった。