text(平浦)
□温泉に行こうよ(うえか〜の続き)
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『あー、どないしよー、なーどうしたらええ?』
平子が浦原商店から戻ってすでに三時間。ずーっとこの間、同じ話題が、リプレイされ続けている。
『えーかげんうざいわ、シンジ!!これやるからせいぜいがんばり!やり方わからんかったら本貸すで!?』
平子の顔に避妊具をなげつけて、リサが自室へ下がる。
今日はローズとラブが出掛けていてまだ帰らず、ハッチとひよ里は、平子と入れ替わりに浦原商店へ義骸のメンテに行っている。
リサがいなくなったリビングには平子と拳西と白だけが残っていた。
『リサちん、なんでこんなのもってんのかな?ね、ケンセー?』
平子の顔から落ちたそれを拾い上げ、白が聞く。
『俺に聞くなよ…。リサのことだからどうせ、ろくなもんじゃねーだろ』
『これ…どうやって使うんや?』
『なに聞いてんだよ』と拳西は言ってやりたかったが、平子の真剣な顔に、思わず黙ってしまった。
平子が真剣になるのもわかる気がする。
平子が浦原とつきあい始めてもうすぐ一年になる。
毎日の様に浦原商店に通い、『喜助が』の口ぐせは前より酷くなり、メンバーは辟易した。が、
それでも幸せそうな平子を見ているのは気分が良かった。
それが、このところ少し様子がおかしかったのだ。
溜め息ばかりついて、食欲もない。
しかし浦原となにかあったわけでもないようだったので皆しばらく様子を見ていた。
今から一週間ほど前に、珍しく外で呑んで前後不覚になった平子がたまたま起きていた拳西に吐露したのは、なんとも可愛いというか、青春期のお悩み相談所かと、突っ込みたい話だった。
『喜助はなんもかわらんねん』
という、訳のわからない言葉から始まったのだが、どうやらつきあい始めたはいいが、まったくと言っていいほど、浦原の平子に対する態度が変わらなかったらしい。
会いに行くと歓迎してくれ、楽しく話をし、食事をしたり、酒をのんだり、たまに遅くなれば泊まりもしてきた。
しかし、恋人同士のような甘い雰囲気にはさっぱりならないのだという。
あまりに健全で、こっちがおかしいのかと思うらしい。
『友だちやねん。喜助の中では…。俺ばっか焦ってアホみたいや。』
と、泣き出す始末だ。
そこで、拳西は平子に
『もうすぐ付き合って一年になるだろ?旅行にでも誘ってみたらどうだよ。店はテッサイたちもいるし、遠慮してるんだろ。ふたりっきりなら違うんじゃねえか』
と言ってみた。
平子は赤い顔を更に赤くして、
『おー、さすがやな、拳西』
とわからない誉め方をした。
それから、何処へ行ってどこに泊まるか、まるでツアコンのように付き合わされた拳西は己のタイミングの悪さを呪っていた。
散々話したが、結局浦原の希望も聞かなくちゃいけないだろうということで、今日浦原商店へ平子は行って来たのだ。
そして帰ってきた最初の一言が、
『どないしよ〜』
だった。
断られたのではないのは一目瞭然だった。
『喜助、「ボクから誘おうと思ってたっス♪同じ事考えてたんスね。すごくうれしいな」やて!!日にちは喜助に合わせなあかんから、行くとこや泊まるところは俺に任すて、どうしたらええ!?』
なにこのテンション…という目で見ていたリサが
『知らんわ、好きなとこ行ったらええやん。』
と行って部屋に帰ろうとする。
『リサ〜冷たいのー、リサが一番こっちのことよう知っとるやろ〜、ちょっと教えてーな』
平子がリサにすがるような声をだす。
じと〜っと見つめられて、
『しゃーないな、ちょっと待っとき』
と、自室から雑誌を持ってリビングに戻った。
それからあーでもないこーでもないといいながら、延々と旅行会議が続き、平子以外はアホらしくなってしまった。
『も〜、シンジィ、ここにしなよ〜!ここなら絶対キスケっちも気に入るよ!!』
『うーん』
『なにが気に入らへんの!?ここなら離れやし、部屋ご飯やし、至れり尽くせりやん。露天風呂までついてんねんで!なにふまんなん!!』
『いや〜』
『白が行きたいくらいだよ〜、ね!!ケンセー』
『だから、俺に言うな。でも、なんで迷ってんだよ。俺もいいとこだと思うぜ』
『あ…あ。なんか、ちょっと、』
『なんだよ、はっきりしなきゃ決まんねーだろが』
『いかにも、ヤる気満々なかんじがどうも引けてまう気がして…』
ともじもじする平子にリサがキレた。
『アホか!!ヤる気でいくんやろー!?そうする宿選んどるん違うん!?』
『そ、そうやけど、そない怒るなや〜、初めてでわからんことばかっかやねん、慎重にもなるやろ』
と口をとんがらせて平子がいい、また
『どないしよ〜』と始めにもどり、呆れたリサがコンドームを投げつけてリビングを出て行ったのだった。
『気持ちはわかるけど、ここにしとけよ。あんまり悩んで決まんねーと、話自体なくなっちまうかも知れねーぞ。喜助は俺たちと違って忙しいしな。』
それを聞いた平子は
『そやな。そうする。ここに決めるわ』
と、素直に頷いた。