text(平浦)
□ふたりでいっしょに(温泉〜の続き)
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『平子サン!!早く早く!こっちっスよ〜!!』
駅のホーム電車の窓を開けて頭をだして浦原が平子を呼んでいる。
『おー』
と平子が、弁当を持った手をあげる。
(ヤバイ、顔がにやけてまう)
ジリリリ…と電車のドアを閉める合図が聞こえたので平子は慌てて近場の入り口から乗り込んだ。
『ありがとうっス、すいませんでした、ボクが買っておけばギリギリにならなかったのに。』
座席にふたり仲良く並んで座り弁当の袋を開ける。
『こんな感じも旅行って感じがしてええやん。はよ食べよ。俺腹ペコやねん』
ニカッと平子が笑うと浦原も微笑んだ。
『そっすね。いただきます』
電車が静かに動き出す。
『…ふふっ』
浦原がふと笑う。
『なんや、思い出し笑いか?』
平子が弁当を開きながら、聞く。
『いえ。なんだか平子サンとこうして旅行できちゃうなんて、不思議で。それに平子サンボクのお弁当まで開いてくれるんスもん』
平子は開けた弁当を喜助の席の前の簡易テーブルの上に置く。
『な、なんとなくや、自分の開けるついでやし…』
『うれしいっス。ありがとうっス』
浦原がうれしそうに平子を見る。
『ここのとこちょっと忙しかったし、平子サンに合うのも三日ぶりだし、なんだかすごく、楽しいんです』
(な、んか、かわええやっちゃな)
素直な浦原に平子が動揺する。
『は、はよ食べ。喜助のも食うてまうぞ』
照れ隠しのように弁当を食べ始める。
(どないすんねん、今からこんなドキドキしてて、生きて帰れんかもしれん)
『はい。平子サン』
始終笑顔の浦原にどぎまぎしながらも楽しく弁当を食べる。
(全然味がわからんかったな)
平子はそう思いながら弁当を片付けていると、ガツンっと音がした。
見ると浦原が、窓にもたれ掛かっている。
『喜助っ!?だ、大丈夫か?』
慌てて浦原を抱き起こす。
『ん…、眠…いっス、ひ…らこサン』
むにゃむにゃと言いながら浦原が目をこする。
平子は慌てて浦原を離し、背もたれを倒してやる。片方だけ下がっているとなんだか嫌だっので、自分の方も倒す。
(あかんかったで、今、思わずキスしてしまいそうやった…なんで今日こんないちいちエロ…やない、かわええねん、アホが!!)
自分のことは棚にあげ、浦原のせいにする。
(しかし窓にぶつかっても起きんて、そうとう疲れてたんやな。そないして、来てくれたんや。)
浦原はくうくうと気持ちよさげな寝息をたてて寝ている。
そんな浦原のことを見て幸せな気分になった。
浦原の弁当はまだ食べ終わっていなかったが、一纏めにして片付けた。
(さて、俺もすこし寝とこ。なんか昨日は舞い上がってもうて、ほとんどねとらんかったし)
そう思うととたんに睡魔に襲われた。
うとうとしはじめたとき、とんっと肩に何か当たった。
なんだ?と片目を開いてみると、平子の肩に浦原がもたれていた。
(!!喜助…)
服ごしに、浦原の体温が伝わってくる。
(ぬくい…ぎゅってしたーなるなあ。あかんー、ほんとに、きすけのあほー)
そっと、浦原の頭をなで、自分の方も浦原に寄りかかってみた。
より浦原の寝息が聞こえる。
(ほんまにぬくいなあ。)
『…サン…ひ…らこ…サン!!』
(?…喜助?どうし…)
『喜助っ!?なに?』
平子はいつのまにか寝ていたようだ。
浦原が心配そうに平子の顔を覗きこんでいる。
『平子サン、あとひと駅っス。平子さんも疲れてたんスね、ボク先に…いつのまにか寝ちゃってすみません。』
浦原が申し訳なさそうに頭をかいた。
『いや、俺もいつのまにか…』
『平子サンの寝顔可愛かったっスよ。』
『アホ、男やど、可愛いわけあるか!!』
さっきまで、散々浦原を可愛いと思っていたくせに、自分が思われるのはイヤのか、照れるのか、思い切り否定した。
浦原は少しびっくりしたような顔になったが、妖艶に微笑み、平子の耳元で
『ボクはどっちでもいいっスよ』
と小声で言った。
『なにがや…』と問う前に電車が目的地に着いてしまった。
『あっ、平子サン!!降りないと!!』
『あ、ああ、荷物』
『ここっス。ボクが持って行きますから早く出てくださいよぅ。』
『あ、はい。』
窓側にいる浦原に急かされ、平子は出口に向かう。
(さっきのどっちでもいいって…、上か下かのことやないよな?!でも他になんかあるか?あかん、俺の目は曇っとるわ)
『曇ってますね〜』
と、浦原が言ったので、平子は驚いた。
『な、なんやねん、曇っとらんわ!!』
『え〜?曇ってるじゃないっスか、雨、降りそうっスもん』
と、空を指さした。
『宿に、急ぎましょ』
とニコニコする浦原に平子は、赤くなっただろう顔を背けて
『そやな…』
としか言えなかった。