text(平浦)

□ふたりでいっしょに2
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(なんや、ずーっと喜助のペースやな〜こないな調子じゃ、この先どないなるんかわからんなぁ)
平子は旅館の部屋、窓辺に置いてあるソファに寝転がって手入れの行き届いた庭を眺めている。
一緒にいるはずの浦原の姿はここにはない。
旅館への道すがら、温泉街を通っていると

『あっ、平子サン!!ちょっとボク、急用ができました!!一時間くらいで済みますから、先に宿チェックインしててください!おねがいします!!』

喜助が、突然言い、あっという間に何処かへ消えてしまった。
霊圧を探ればこの温泉街にはいるようだ。
平子は唖然としながらも、他にどうしようもないので一人で宿へ向かった。
浦原はいったいどうしたのか、待つより他にない時間をもて余すのもいやだったので、途中土産屋に寄ったり、まんじゅうをつまんだりしてふらふらしていた。
そんな時、小さいガラス工芸の店を見つけた。
作家が作った一点物の品が並ぶ。

(あ、これ…かわええな…。)

平子が手に取ったのは、不揃いな粒のガラス玉が並んでついているブレスレットだった。光に反射して色んな色に変わる。

(喜助に似合いそうやなぁ…)


『なんとなく買ってもうたけど、誕生日でもなし、なんちゅうて渡そ。』

平子は溜め息をついて、小さな包みをポケットに入れ、宿に入った。

中居に、もうひとりは後から来ると伝えて、先に部屋へ通してもらった。
部屋は離れで、本館からは渡り廊下でつながっている。
食事は部屋で取れるし、露天風呂も付いていて基本部屋から出ずに過ごせるのだ。
取り立て豪華な内装ではないが、落ち着いた色調で統一され、照明もモダンだ。
床はどこも畳で敷居がない。
奥には寝室があって、和室なのにベッドが二台置いてある。

もうすでに浦原と分かれてから一時間以上は経っているだろう。
部屋は隅からすみまで見たし、こうしてソファに寝転がってごろごろしているのも飽きてしまった。

『せっかく温泉来たんやし、でかい風呂入ってこよ。』

誰ともなく言い部屋から出た。
外は雨がひどくなっていた。

(喜助のやつなにやっとんねん…寂しいやんか)



『あら、カギが。お連れ様いらっしゃらないようですわね。大風呂かもしれませんわ。』

『そスか、じゃあ、ボク部屋で待ちます。夕飯は…』

『6時にお部屋にご用意にお伺いいたしますが、よろしいでしょうか?』

『あ、もう一時間ないっスね。あ、いいです。はい。楽しみにしてます。』

カギを開けてもらい室内に入る。
平子の荷物がきちんと端にまとめて寄せてあった。

(いきなりほっておいて、怒ってるっスかね…)

浦原はベッドに仰向けになる。
(ふかふかっス…)
危うく目を閉じかけて、はっとする。
ここで寝てしまっては、平子の機嫌は最悪になってしまう。
浦原は目覚ましに部屋の露天風呂に入ることにした。
露天風呂も部屋と同様シンプルだが、よく手入れされていて気持ちがよい。
ちゃぷんっと音をたてて湯に浸かる。
やはりここ数日の忙しさに疲れていたようで、身体に湯がしみわたる。

(なんか、おじいちゃんみたいっスね)

一人笑って、中庭を見る。
なかなか止まない雨は、より強く降って、庭木の葉をバチバチと打っている。

『すごい雨っスねぇ…』

目をつむって雨音を聞いていると心まで癒されてくるようだ。

『平子サンもう戻ってくるかな。また後で一緒に入ってくれるっスかね』

平子を想うと、どうしても顔がゆるむ。
へへっとひとり笑い、風呂から上がり、バスタオルを腰に巻き室内に入る。

と、入り口から平子が入って来た。

ハタッと目が合い動きが止まる。

『あ、あの平子サ…』

さっきのことを謝ろうと浦原が口を開いた瞬間、平子がすばやく近寄り、口を塞いだ。平子の口で。

『う…んっ』

平子は肩を押し、逃れようとする浦原の首の後ろを押さえた。
角度を変える度に

『ひ…』

『らっ』

『…こさっ』

と、必死に自分の名を呼ぼうとする浦原を平子がやっと解放する。

『ひ、平子サン…』

涙ぐんだ浦原が平子の様子を伺う。

『どこいってたんや』

平子は浦原の肩口に頭をのせ言った。
穏やかな声音に浦原はホッとする。

『す、いません。どうしても欲しいものがあって…』

『欲しいもの…?』

平子が顔を上げたので、また目が合う。

『あ、あの…』

『俺は、喜助がほしい。もう、ずっと…』

欲望に満ちた眼差しに浦原はすっかり動けなくなっていた。

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