text(虎兎)

□恋は嵐のように3
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虎徹さんの様子がまたおかしい。
今朝からずっと変と言えば変だったが、銀行の爆弾事件の後からはなんだかものすごく不機嫌だ。
別に無視されるわけでもない、怒らせたわけでもないらしい。
話しかければ返事も返ってはくる。
また試しに声をかけてみる。
『虎徹さん…。』
『なんだ?』
こっちは向かない。
『コーヒー買ってきますけどいりますか』
『…ああ、そだなー。』
何と無く気のない答だ。
事件後、トランスポーターの中ではまだ僕に気を使ってくれてる風だった。
でも爆発が終わった後から、ずっと声が低めな気がする。いつものようにおちゃらけたりはしない。思案している様な感じがする。
この人のこういう雰囲気は危険だ。能力減退の時も、コンビ解消の時も1人で考え込んでる姿を何度も見た。どう見ても考えることに向いていないのに、1人で抱え込む、悪い癖だと僕は思う。
『じゃあ、行ってきます』
僕は虎徹さんに背を向けて歩き出した。
何かモヤモヤしたものが胃のあたりに溜まっていく感じがする。
もうずっと隣にいると、決めているのに…また、何か1人で決意しようとしてる?
『やっぱ、俺も行く!』
エレベーターの前で後ろから声がして虎徹さんが追いかけてきた。
僕が振り返るとバチっと音がしたように目が合った。
『…あ、はい』
驚いたのもあるが、なんだか調子が狂う。
虎徹さんの顔が赤い。
走って来たから?でも照れているような表情に感じる。
目を逸らして
『一緒に行っていーか?』
と落ち着かない感じで聞いてくる。
いつも勝手についてくるじゃないですかって、思っているのに口に出せない。
『はい…』
なんだかぎこちなく、2人でエレベーターに乗った。

アポロンメディアを出て左、いつも通うカフェに着くと虎徹さんが赤い顔で前を向いたまま、
『なあ』
と、言った。
『…なんですか?』
つられるじゃないか、なんで虎徹さん相手にこんなに照れなくちゃならないのか。
『これ、公園で飲まねえ?』
買ったばかりのコーヒーを持ち上げて公園の方を指差す。
いよいよ何か言われるのか?なんだろう。
『いいですが、どうしたんですか?何か話したいことでもあるんですか?』
『…』
僕がそう聞いたら、虎徹さんは黙りこんでしまった。
『虎徹さん?』
僕は焦った。モヤモヤした気持ちになってしまう。
僕はあなたの気持ちをまた読み間違えているのか?
『…あー、やっぱ、帰ろ。書類やらなきゃ…』
くるりと向きを変えて、虎徹さんは道を戻り始める。
僕は更に焦った。
(冗談じゃない!こんなままで、仕事なんかできるか。)
僕は電話を取り出す。
『ロイズさん?僕です。
ええ、すみませんが早退させてください。
はい。虎徹さんも。さっきの事件で問題が起きて。
ああ、大丈夫です。バディ間の問題です。
え?さっきの?メディカルチェックは受けましたよ。特には。
はい。わかりました。注意します。』
ロイズさん相手の電話を聞きながらの虎徹さんは口をパクパクしている。
電話を切って虎徹さんに向き直り、笑顔を作る。
『さ、これで予定は無くなりましたよ?心ゆくまで話しましょう。虎徹さん?』
虎徹さんがダラダラ冷や汗をかいて何かブツブツ言っているのがおかしくて、僕は笑ってしまった。
『行きますよ、おじさん?』
そう言って横目で見ると、
『わかったよ!公園はやめ!おまえんちな』
と覚悟したような、切腹する武士のような表情の虎徹さんがいた。
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