本日もまた晴天なりにて
□月島家とパンの耳
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「聞いてください皆さん!」
サヤは嬉々とした表情でソファーから立ち上がった、体は凄く怠い。
「明日は……休みです!」
両隣からパラパラと拍手。ナナは満面の笑顔、竜崎は無表情。(いや、笑っているように見えなくもない)
『予定はあるんですか?』
「特にないよ」
「ではこれで何か作ってください」
何処からか取り出す。それは、
パンの耳だった。
***
「こんなに一杯どうしたの」
ぎっしり詰まった袋にパンの耳。詰めすぎてボールのように形状が丸い。
「パンの永井のおばさんがテレビを直したお礼にくれました」
「あー、あそこのおばちゃんか」
「これでサヤちゃんは美味しいもの作ってくれるはずだから、と。だからお願いします」
目が爛々としている竜崎に、にやけながら仕方ないな口に出すサヤ。ナナはハッ、と溜め息をついた。
***
朝十時、サヤが居間に着くと既に全ての準備が整っていた。自分が何も準備してないことに申し訳なくなってしまった、それは私の仕事だってば。皆はゆっくりしてればいいのに。
『マスター疲れてましたから、出来ることはしちゃおうと思いまして』
お茶目にウインク。うんナナ可愛いね、でも私にもやらせて欲しかったなー。竜崎の方に視線を向けるとエプロンを装着していた。
「お、エルも手伝ってくれるの」
露骨に不本意な顔をして
「私は食べ専です」
『皆で作るともっと美味しくなるじゃないですか』
その通りだ、サヤはナナに便乗する。
「そうだね、それにスキルアップだよ。一人で色々出来るようにならないと。次はいつ会えるか分からないんだし」
竜崎は指を咥えながら、視線を落とした。
「……そうですね」
『……さて、今日は何を作るんですか』
ナナが声を張り上げた。
「ナナさんったらもう、分かってるくせに」
「パン耳、マーガリン、グラニュー糖……。ラスクですね」
「正解!材料もそんなにいらないし簡単に作れて美味しいんだ」
『では早速作りましょう』
「じゃあ、まずこのままじゃ少し食べづらいから半分にカットしよう」
『竜崎さん包丁は摘まんで持つ物ではありません』
***
「後はこれを三十分オーブンでチン」
「もうエプロン脱いでいいですか」
「どうぞー」
二人でソファーに座る。
「どうだった?」
「中々、楽しかったですよ」
「皆で作るっていいよねー」
「でもやっぱり食べる方が好きです」
「……そっかー」
「少し、疲れました」
サヤの膝に頭を置いた。彼女もフッ、と笑って
「んー……、そうだね」
伸びをした。
ああ、今日も良い日だな。空には飛行機が白い糸を引いているのがみえた。これが普通って奴なんだろうな。
サヤは竜崎が此処に来てくれて良かったのかもと思った。自分を少し許しても良いのだろうか、彼の人生を奪った自分を。
頭を優しく撫でる。竜崎は猫みたいにそろりと目を閉じた。私はどうしようか。
「早く出来ないかな」
私も少し寝ようかな、三十分だけど。
出来たラスクはサクサクしてて美味しかった。当分竜崎のおやつには困らなそうだ。
end