04/29の日記

23:47
また思いつきの話(暗い。コ哀ではない)
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「新一は何処?何処に行ったの?ねえコナンくん!新一返してよ!!」
幼なじみで恋人の彼女が悲痛に叫んだ。精神的に強いはずの彼氏も流石にショックで表情を無くして無言で俯いた。(…)
小さな掌を血色が無くなるほど握りこむ。泣き出して止まらない幼なじみは、大学生にもなったのに小さな少女みたいだ。
きっかけは些細なすれ違い。口論。そして恐らく溜め込んだ気持ちが爆発したのだ。幼なじみは。
「新一…新一ぃ…」
新一は俺だ。俺なのに…。
新一本人だと、蘭にも全て説明したはずだ。解毒剤が絶望的だと判明したあのときに。
隠していた事。重ね続けた嘘も全部流せたと思っていた。姿は変わっても自分は工藤新一で、蘭も理解してくれたと、蘭なら受け入れてくれると、勝手に思い込んでいた。
しかし、対外的には大学生と小3のカップルなんて奇妙で異質だ。周りにチヤホヤされ、恋人とはお似合いだと大きく賞賛されたい、そうされるべきだと信じて疑わなかった蘭には、思わなかった誤算で耐え難かったのだ。
並ぶ度に感じる歳の差。
そして何より、心理の奥底がコナンのこの小さな体を、いつまでたっても大好きだった幼なじみとはどうしても同一視出来なかったのだ。
(納得出来てなかったんだな蘭…)
何も言えず佇むコナンにハッとした蘭が涙声で謝った。
「ごめんねコナンくん!…あ。新一…」
やはり成長した新一の体で、蘭の元に帰らないと
終わらない。約束は果たせないのだ。
帰りたい。…帰りたい。

「灰原!!」
勢いよく飛び込んできたコナンに、哀は驚いて目を丸くした。
「解毒剤くれよ」
「え…?」
「なあ!解毒剤本当に駄目なのか?今からでも飲んでみたら効いて元の姿に…」
「無理よ。貴方には耐性が出来てしまったと伝えたでしょう?」
「わぁーってるよ。でも万が一って可能性も…。もう一度解毒剤作ってくれよ。頼むよ灰原…」
「いい加減にせんか!新一!!」
阿笠が大きく荒げた声を出した。
「君には失望したよ、新一。あの時哀くんの説明を理解していなかったのか」
「理解はしてるよ。でも蘭が…」
先程の、泣き叫ぶ蘭を思い出すと胸が騒いでどうしようもなくなる。
「何があったのかは知らんが、もう終わってしまった過去を蒸し返してそれで哀くんに無茶な要求や当たる事はないじゃろ。哀くんを傷つけてまで」
少し強く言う阿笠に哀が制止しようとする。
「博士…」
「いいから。哀くん。言わせてくれ」
「…」
コナンは一杯になって溢れる感情をやっと止めてハッと哀を見る。
「君の体には耐性ができてしまった。度々重ねた軽はずみな服用でな」
「博士…」
「哀くんの忠告もさっぱり聞かず突っ走った自業自得のこの結果を新一は納得してたはずじゃろ」
そうだった。あの時、今の事態を招いたのは自分自身だと自ら言って灰原を励ましたではなかったか。
「哀くんは君のために命を削って開発していた。協力しなかったのはお前さんのほうじゃろ」
いつでも自信家で楽天的に軽く考え、事件や蘭の事以外聞く耳持たずに突っ走ってきた。
自業自得だ。
コナンにはその言葉しかなかった。
「灰原…」
コナンをジッと見つめていた哀に目があう声をかけようとしたら、強ばらせた表情の哀が崩れ地下室へと走っていってしまった。
「…わりぃ」
小さく呟いた言葉は去った彼女に届くはずもない。
「何があったんじゃ?蘭くんと」
先程のことを話すと、肩でため息をついて珈琲をいれたカップをコナンに渡した博士が新一を見た。
「君はどうしても蘭くんが絡むと見境がなくなるのお」
コナンはぐっと顔をしかめた。
「君らは近すぎて思い込みで付き合い、お互を全く見てないのかもしれんな」
「え?」
「とにかく、蘭くんとよく話し合うことじゃ。それは新一自身で解決すること」
「ああ…」
「今日君が傷つけた哀くんには」
「きちんと謝ってくるよ。許してくれるまで」
すっかり落ち着いたコナンは、地下室へと歩いていった。
しかし、コナンが溢してしまった水は盆には戻らないことを知っている博士は神妙な顔をして見送った。
恐らく哀なりに茶化しながらコナンを許すだろうが、大きな傷口を抱えたまま溜め込んでしまうだろう。それを賢く悟いと自他共に認める、中身は若冠二十歳の探偵は気づくことが出来るだろうか。

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