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□闇夜に説ける蝶
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「本当にそれがナマエ=ラキーラの最期の本だと思ってる?」

その言葉にクロロは手を止めた。苦し紛れに出したであろう言葉はあまりに魅力的すぎた。

「違うのか?」
「出版した本は全て飛ぶようにして売れ、お金も未来も何もかも手に入った。そして突然の自殺。33歳の若さで、遺書もなく。ミリオンセラーばかりを出したにも関わらず、ナマエ=ラキーラ、現在その名は滅多に口に出されない。......可笑しいと思わない?」

 いい本は何十年何百年経ったってその名を忘れられることはない。確かに妙である。クロロは視線で続きを促した。

「ナマエ=ラキーラは病気持ちだったって言われてるけど、そんなこと無いんだよ。至って元気だった。何故亡くなったのか? 殺されたから」
「話に脈拍が無さすぎる。何が言いたい?」
「あなたと同じ念能力者だったんだよ」

 まるで話が繋がらない。頭脳明晰であるクロロにも理解しがたい現状。

「まるで何もかも知っているかのような口振りだな。根拠は?」
「......何だと思う? 私を殺してみたら分かるかもね」
「いや、お前は殺さない」
「殺そうとしてたのに?」
「気が変わった」
「そう」
「殺してほしかったのか」
「どっちでもいいよ。ナマエ=ラキーラの念能力は、死が発動条件だからね」

 サファイアが揺れる。海のようだ。深く深く、底の見えない広大な海。時に牙を向く、美しい海。

「妙な念能力にしちゃったよ。死んでも死んでも生き返る。気に入ってるけど、そろそろ飽きてきた」
「まさかあなたがナマエ=ラキーラだとは」
「わあ気持ち悪い言葉遣い」
「オレはあなたを尊敬している」
「そう」

 興味無さげにナマエは鼻で笑った。

「私は本を書くことをやめた。趣味で稼いで命を狙われるなんて、こんなつまらないことは無いからね」
「もったいない」
「そうだね私もそう思う」

 ナマエは死んでいる父親を見た。彼は何人めの父親なのだろうか。

「オレと共に来い」
「どうして?」
「興味があるからだ」
「私は無いけど。着いていかなかったらどうする? 殺す?」
「あなたが俺の手に入らないのなら、誰かの手に入るくらいなら、殺す」
「そうすればまた蘇へばいいだけ」
「蘇る度にあなたを見つけ出し、そして殺す」
「ふーん、面白いね。いいよ、着いてってあげる」


(変わり者なんだね)
(あなた程では無いさ)

 
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