妄想天使

□妄想天使とカタルシスの仮面2
2ページ/3ページ

信じられない、というようにアレクさんは刃物を持ち出す。


「この女は今弱っている。抵抗する力はほぼゼロだ。この包丁を刺しただけでも死ぬんだぞ?」


気づかれないように神の遊び“ゴッドミラー”を発動させる。変な制約が無くて良かった。最後の力を振り絞り、ぐっ、とアレクさんの腕を掴む。


「な、何かね」


一瞬戸惑う。分かっていても怖いものは怖い。しかし時間はない。意を決して、刃物を自分の喉に突き刺す。


「なっ!!!」

「シエラ!?」


痛みはない、貫かれた感覚もない。ただ顔面に降り注ぐ生ぬるい液体……それが血であることは、苦しそうな呻き声が物語っている。


「がっ、かはっ……」

「大丈夫!?」


苦しそうなアレクさんをスルーし私を心配してくれるシャル。嬉しいけど、なんかずれてるなぁ。

目の前の光景が怖くて、目を開けられない。鉄の臭いに気分が悪くなる。


「……ろした……」

「え?」

「私が、殺した……」


今この瞬間、一人の人間が息絶えている。私が殺したのだ。尊い命を奪った。見なくてはいけない、自分がしでかした現実を。

す、と目を開けると、喉から血を吹き出しながらもこちらに手を伸ばすアレクさん。


「……っ!」


怖い、心からそう思ってしまった。体が強ばり動かない。私の視界はすぐにまた真っ暗になる。顔になにかが当たっている。仮面をつけられたのだ。


「悪夢の、仮面で……がふっ、く、苦しめ……殺人鬼め!」


私はついに眠気に抗えなくなり、そのまま深い眠りに落ちていった。
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ