妄想天使
□妄想天使とカタルシスの仮面2
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信じられない、というようにアレクさんは刃物を持ち出す。
「この女は今弱っている。抵抗する力はほぼゼロだ。この包丁を刺しただけでも死ぬんだぞ?」
気づかれないように神の遊び“ゴッドミラー”を発動させる。変な制約が無くて良かった。最後の力を振り絞り、ぐっ、とアレクさんの腕を掴む。
「な、何かね」
一瞬戸惑う。分かっていても怖いものは怖い。しかし時間はない。意を決して、刃物を自分の喉に突き刺す。
「なっ!!!」
「シエラ!?」
痛みはない、貫かれた感覚もない。ただ顔面に降り注ぐ生ぬるい液体……それが血であることは、苦しそうな呻き声が物語っている。
「がっ、かはっ……」
「大丈夫!?」
苦しそうなアレクさんをスルーし私を心配してくれるシャル。嬉しいけど、なんかずれてるなぁ。
目の前の光景が怖くて、目を開けられない。鉄の臭いに気分が悪くなる。
「……ろした……」
「え?」
「私が、殺した……」
今この瞬間、一人の人間が息絶えている。私が殺したのだ。尊い命を奪った。見なくてはいけない、自分がしでかした現実を。
す、と目を開けると、喉から血を吹き出しながらもこちらに手を伸ばすアレクさん。
「……っ!」
怖い、心からそう思ってしまった。体が強ばり動かない。私の視界はすぐにまた真っ暗になる。顔になにかが当たっている。仮面をつけられたのだ。
「悪夢の、仮面で……がふっ、く、苦しめ……殺人鬼め!」
私はついに眠気に抗えなくなり、そのまま深い眠りに落ちていった。