妄想天使

□妄想天使も女の子
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「やほーイルミ」


すっかり馴れ馴れしく接する。心なしか不機嫌そうにイルミが出迎えてくれた。


「どうするの、結婚」

「しないよ」

「お袋すっかり乗り気じゃん。ああなったら聞かないよ」

「そこは息子が何とかしてよ」


イルミは指を顎に当て天井を仰ぐ。そしてポンッと手を叩いた。


「間違ってシエラを殺しちゃったっていうのはどう?」

「却下します。」

「それが一番手っ取り早いよ」
「クロロが殺すなって言…」

言葉を失う。頬を何かが掠め、熱くなる。垂れる液体。……血だ。

「約束はしてない。努力するとは言ったけど」

「……まじ?」


イルミは鋲を構える。


「逃がすなって言われてるし殺すしかないよね」

「他に方法はあるよ! 一緒に考えよう! ね、落ち着いて?」

「参ったな、紹介して気に入られなくて始末されて終わりの予定だったのに」

「むごいこと言うね、っ!」


不意に鋲を投げられる。かわしたつもりがかわせてない。首筋を掠り、血が流れる。


「この至近距離はシエラの方が不利でしょ」

「……」


神の遊び“ゴッドミラー”は、相手の手から離れた武器による攻撃は返せない。最悪な相性だ。
戦わない方がいい。そう判断し、後ずさる。


「逃げるの?」

「……ちょっとお手洗いに」

「嘘でしょ」

「お腹痛いから行かせてくれない?」

「無理」


再び鋲を構えるのを見て、背を向けて走る。背中に何本か刺さる。まじで痛い! あ、これって毒とか大丈夫なんだろうか……。


「待ってよ」


待てません。後ろから追いかけてくるイルミは絶え間なく鋲を投げてくる。距離があるから何とか避けつつ逃げる。この屋敷の地理が分からない。


「あらシエラさん、どうしたの慌てて」

「キキョウさん! お邪魔しました!」

「またいらしてね。……あら、イルミったら廊下を走らないの。楽しそうだからいいけど、オホホ」


キキョウさん、腕にイルミの鋲が刺さってるけど大丈夫!? 盾にした訳じゃないけどごめんなさい。
にしても……。

振り返ると無表情のイルミが凄まじい速さで追いかけてきている。

ありがとうシャル、キミとの鬼ごっこが役立ってるよ。

とりあえず窓を破壊して外に出る。破片が刺さる、いたたた。


「あ、器物破損だ」

「まるで常識人のような口ぶり!」


オーラを飛ばし、木々を倒しながら逃げる。


「ちょっと壊しすぎなんじゃないの」

「誰のせいだ!」

「シエラのせい」

「絶対違う!」


駄目だ地理が全く分からない。がむしゃらに走っていると、左側が壁であることに気づいた。もしかして塀?
いちかばちか、木に登っていく。


「逃がさない」


イルミが木を蹴り倒す。脚力はんぱない! 倒れていく木を思い切り蹴り、なんとか塀にしがみつく。
見おろすと、川。ゾルディックの敷地外であることが分かったが、絶体絶命。思わず目眩がした。


「……」

「終わりだね」

「……イルくん」

「それやめて」


細い塀の上に器用に立つイルミ。イルミが一歩近づく度に一歩下がった。ぬる、と足元が滑る。血だ。背中から流れている血が垂れている。


「そんなに血流してよく立っていられるね」


ふらり、足元がぐらつく。目眩は貧血によるものだったのか。


「惜しい人材ではあるよね」


あれ、イルミの声が遠い。と思うと同時に浮遊感。


「クロロには残念だったと伝えておくよ。……バイバイ、シエラ」


バッシャーーン


私の体は冷たい水に包まれた。一気にフェードアウトする視界。

川に落ちたんだ。

そう理解したのを最後に、私は何も考えられなくなった。





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(ジエンドなんてやだよ)
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