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□闇夜に説ける蝶
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星ひとつない真っ暗な夜。月さえも姿を隠してしまった闇の中、その本屋だけはうっすらと明が灯っていた。
「素晴らしい」
クロロは一冊の本を手にしたまま呟いた。
“ナマエ=ラキーラ最後にして最高の本。彼女は最期に何を想ったのか......。”
ありきたりな謳い文句。これは編集が最悪だな、とクロロは思った。
「その本、知ってる」
耳元で囁いた声に少しばかり驚く。勿論そんな態度は微塵も見せず、振り向かないままページをめくる。
「誰だ?」
「あなたが殺した店主の娘だよ」
本から視線をあげる。彼女を見る。青い瞳が機械的に微笑み、ゆるくウェーブのかかった髪がふわりと揺れる。見たところ、二十歳くらいだろうか。
「そうか」
「うん」
「まだ人が居たとは気がつかなかったな。隠れておけばよかったのに」
目的の本は見つかった。本は汚さないようにこの娘を殺して、早く帰って読んでしまおう。クロロは手を鋭くした。