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□君を失った世界
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息が詰まる。
呼吸を忘れ、目を閉じる。
ああこのまま死んでしまえたらいいのに。
メールで告げられた別れ。
前カノが忘れられないから、って何それ。何それ本当に。
何でこんなに苦しいの?
遊んでるのは、私でしょう?
本気になってる貴方を、私は軽い気持ちで可愛がる。
そうでしょう?
なのに、なんで。
失恋したみたいに胸が苦しい。
***
「シャル、カギと指輪……置いておくね」
「うん」
「……」
「……どうしたの?」
こてん、耳を傾げる彼はあまりにもいつも通りで泣けてくる。
「もう、私のこと好きじゃないの?」
「好きだよ。でも元カノも、好きかもしれない」
「かもしれない、それで別れるの?」
「ナマエに悪いから」
「同情なんていらない!!」
何で怒鳴ってんの、……何で泣いてんの。
もうやだよ、これじゃあまるで別れたくないみたい。
「好きっ……もっと、ちゃんと言えば良かった……!」
ぎゅ、と力強く優しい腕に抱き締められる。これがきっと最後の抱擁。
顎にかかる指。駄目だ、キスなんて離れられなくなるだけ。
力一杯胸板を押し返す。
「ナマエ……」
「ありがとね」
そして、さよなら
涙に邪魔されて言葉が続かない。
ドアを開け、振り返って手を振る。
パタン
閉じられたドアは、私とシャルの二人の世界を完全に遮断した。
携帯が震える。
『ごめんね』
最後までなんて優しく残酷な人。謝ってほしいなんて思っていないのに。
ドア越しに居る彼がひどく遠い。この扉を開ける方法を知らない私には決して越えられない壁と同様だ。
「うっ……ふ、うぅ…」
涙は止まることを知らないようで、次から次へと流れてくる。
『さよなら』
本当に言いたいことも、直接は言いにくいことも、メールだとアッサリ伝えられる。
結局はメールに頼ることになるなんて。やるせない……。
ただただ悲しくて
ただただ涙を流すだけ。
息が詰まる。
呼吸を忘れ、目を閉じる。
ああこのまま死んでしまえたらいいのに。
君を失った世界
(何もかも退屈で)
(何もかも遅すぎた)