妄想天使
□妄想天使に殺意
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「あ、ティッシュあるかな?」
指の間から垂れる血。いたって普通のことを言う彼女に感じる違和感。クロロは警戒しながらポケットティッシュを手渡す。
「ありがと。クロロってしっかりしてるんだなぁ」
微笑む女はやはり美しい。しかし、鼻にティッシュが詰まっている。
「何が目的だ?」
「ん?」
「空から落ちてきたふりまでして、オレに近づいた目的は?」
「目的なんてないけど。うーん、クロロに近づくのが目的……なのかなぁ」
「適当にごまかす気なら……」
「わぁ、待って待って!」
とはいえ、このまま殺すのは惜しい。というよりすっきりしない。この可笑しな女には、謎がありすぎる。
「とりあえず、自己紹介と知っていることを話せ」
「私の名前はシエラ。クロロのことをちょっと知ってる」
「……」
「……」
「……で?」
「え? 終わり」
クロロは再びスキルハンターを構える。
「やめて殺さないでごめんなさい。」
女……もといシエラは、必死に謝っている。
「うーん……私の名前はシエラ。年は内緒。乙女だから。好きなことは妄想、得意なことも妄想。好きな食べ物は甘いもの全般。嫌いなものは…」
「自己紹介はもういい。知っていることは?」
「えー。クロロってばせっかちなんだからー」
無言で睨み付けるとシエラは狼狽える。
「そ、そんなに見つめられたら……っ」
「見つめてない。早く話せ」
「もう、仕方ないなぁ。私が知ってることは、話せないよ」
「何故だ」
「“物語”に影響が出たらダメでしょ?」
全てを見透かすような目を細め、シエラは笑う。
「力ずくで聞くと言ったら?」
「聞いてみたら? って言うよ」
挑発的にクロロを見返す。
手始めに、堅をした手でシエラの鳩尾を殴る。
素早く反応したシエラは、クロロの拳を受け止める。いい読みだ、しかし生身では止めることは出来まい。
そう思っていると驚いた。自分の鳩尾に、鈍い痛み。
「痛みが……」
跳ね返ってきた?
口の端から垂れてきた血をぬぐい、シエラを見る。
「“神の遊び(ゴッドミラー)”。面白いでしょ?」
「面白い念だな。特質系か?」
シエラは何も言わず、クロロの血を指で拭った。
「……」
クロロはそのまま腕を掴み、体を引き寄せる。至近距離で見つめあう二人。
「お前は何処まで“知っている”んだ?」
「少しだけだよ」
「ほう。俺のスキルハンターの制約を知っていて、“少し ”なのか」
バレたところで問題はない。シエラの能力は惜しいが、命に支障をきたすわけではない。