妄想天使

□妄想天使とカタルシスの仮面2
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「ワインは嫌いかね?」


うん、嫌い。なんて言えない。ここで機嫌を損ねたらどうなるか分からないし、うまくいけばもしかしたら情報を聞き出せるかもしれないし。


「いえ、ただお酒があまり強くないもので」

「気にすることはない、空き部屋はいくらでもある。朝まで寝てくれてもかまわんよ」


誰が寝るもんか。

では一杯だけ、とワインを注いでもらいグラスを揺らしてみる。ドラマで見たことがある。最初に香りを楽しむそうだ。……うーん、わかんないや。


「君の仮面はどこで手に入れたのかね?」


当然といえば当然の質問に内心焦る。

思い出す先程の出来事。
瞬間は見ていないが、確かに見た死体。マンガで見たときは平気だったのに、実際に見るとああも怖いものなのか。

振り払うようにワインを飲む。うん、まずい。


「叔父に譲ってもらったんです。叔父が仮面好きで、今度素晴らしい仮面舞踏会があるから参加するようにと言われました」

「ほう。で、仮面の素晴らしさは分かったのかね」


えーと、なんて答えよう。言葉に詰まっていると、アレクさん? は笑い出す。


「ふはは! まぁまだ若いからな。仮面の良さがわからんのも無理はない」

「……ごめんなさい」

「謝ることはない。……私のコレクションの中で一番素晴らしいと思う仮面はどれだと思う?」


言われて気づいた。この部屋、壁一面に仮面が飾られている。


「えーと、あれですかね……」


適当に指差してみる。


「この赤色のやつかね?」

「その隣の緑のやつです」


適当にそれらしく答える。アレクさんは「ほう」なんて言っている。


「これは悪夢の仮面だよ」

「えっ」


どうやら私には仮面のセンスがないようだ。
アレクさんが手元のスイッチを押すと、悪夢の仮面とやらが取り外されて近くまで運ばれてくる。


「こうして好きな仮面を取り外して一日眺めるのが最近のブームでね……。この仮面をつけた者は三日間悪夢に魘されるそうだ。試してみるかね?」

「え、遠慮しておきます」

「ふふふ、冗談だよ。隣の赤い仮面、あれは真実の仮面といってね。あの仮面をつけている間は質問されたことに正直に答えてしまうそうだ。試してみるかね?」


そう言ってまた仮面を取り出す。興味の無い話に段々と眠たくなってくる。


「やめておきます」

「そうかね? この仮面を私につけて、『カタルシスの仮面はどこだ?』と聞けば答えるかもしれんぞ」


え、今なんて?
聞き返すのも億劫なくらい体がだるい。眠たくて、意識を保つのが精一杯だ。


「まさか今回のこそ泥がこんな若い女だとは、私も舐められたものだな」


ゆっくりとソファーから立ち上がり、私に近づくアレクさん。あれ、やばい? ピンチ? 思考回路が可笑しい、何も考えられない。


「外で見張っているやつをさっさと始末して、こいつはしばらく遊んでどこかに売り飛ばしてやろう」

「……参ったね、念能力者だったんだ」


シャルが対して困ってなさそうに首をすくめる。


「オレの調査不足だ」

「気にすることはない。対して代わり無いさ」

「そうね、さっさと戴いて帰りましょう」


アレクさんは顔を真っ赤にして怒りだした。


「この女を殺してもいいのかね!」


その質問に、誰一人焦った様子は無い。


「かまわない」


クロロの鬼畜、どS!

ただ、今回は本気でやばい。意識が朦朧とする。そんな中で聞いた言葉は、深く心に突き刺さる。
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