妄想天使
□妄想天使、考える
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やらかした。
まさにこの言葉が相応しい。
朝起きたら隣にシャルが寝ていて、ヤっちゃった? とか考えたけど思い出した昨日の出来事。
“っ……シエラッ……”
思い出すだけで顔が熱くなる。
「……おはよう」
「っ!!」
シャルが起きた! それとも起きてた? とにかく、普通にしないと。
「お、おは、おは……」
駄目だ出来ない。溜め息を吐く。
「朝食はトーストセットで良かったかな。食後のドリンクはアイスコーヒーと紅茶を一つずつ頼んだから、好きな方選んでね」
あれ? 案外普通じゃん。
「あの、ありがとう」
「全然」
チーン、と音がしてシャルが入り口の近くの小さな扉を開ける。中から朝食が出てきた。
なるほど、これで顔を合わさずに済むのか。ラブホだからこその気遣い。
いただきます、と言ってトーストをかじる。絶妙な焼き具合、美味しい。目玉焼きとサラダ、最後にリンゴを食べる。食器を下げて30秒ほどするとまた音がなり、今度はコーヒーと紅茶が出来上がったようだ。テーブルに運び、向き合って座る。
「オレ…」
「あの…」
「……」
「……」
話し始めるタイミングが被るという最悪な展開だった。気まずい沈黙が十秒は続いただろう、切り出したのはシャルの方だった。
「昨日は、その……ごめんね。ほら、キスとか」
「い、いいよ! 気にしないで大丈夫だよ」
今考えてみれば、よくもまぁあれだけベタベタできたものだ。店で横になったり、歩けないほど酔い潰れたり、抱きついたり。お酒の力って怖い。
「悪いと思ってる。だってオレは、シエラの好きな人じゃないから。初めてだったんだろ?」
「いいってば。私は……」
何て言うべきなんだろう。
私は気にしないから?
私のせいだから?
私が自分で招いたことだから?
どの言葉も、シャルを傷つける。
「優しいね、シエラ」
シャルは苦笑いしてコーヒーを一口飲んだ。
「嫌だ」
「……何が嫌なの?」
「シャルと気まずくなるのは、嫌だ。……キス、嫌じゃなかったよ。本当に、驚いただけだから。今まで通り接してほしい」
本心を伝える。そう、不思議なことに嫌ではなかったのだ。飲まなきゃ良かった、なんて後悔は微塵もない。
「嫌じゃなかったの? 貴重なファーストキスだよ、一生ものだよ」
何やら重いことを言うシャル。もしかして凹ましたいのかな。
「シャルだし、まぁいっか、みたいな」
「軽っ」
「とにかく、気まずいのが一番嫌。仲良くしようよ」
シャルは一呼吸置いてから頷いた。
「シエラってちょっとのことじゃ凹みそうにないよね」
「……え、そこはオレも悪かったよ仲良くしようねってとこでしょ?」
「じゃあ、オレも悪かったよ仲良くしようね」
「じゃあ!? ムカつく!」
なんやかんやで仲直りできて良かったです、はい。
妄想天使、考える
(楽しいのが一番)