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□結婚理由
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「あなた、なんかキモいですね」
その言葉に少なからず、というかかなりダメージを受ける。
爽やかな風が吹くバルコニーの上で、見つめあう。
「何それ、初めて言われたんだけど」
目の前の女は微笑んだ。
「そうなんですか。みんな目腐ってるんですかね」
なんという毒舌。20数年生きてきて、ダントツ一位で失礼な人間。名前は知らないが、上等なドレスをみる限り何処かの令嬢に違いないはずなのに。
「オレの婚約パーティーだよね」
「ええ」
「失礼だと思わないの?」
「思いません」
「オレに誘われて嬉しくないの?」
「普通ですよ」
苛立ち。今回は誰も殺すなと言われているが守れそうにない。イルミは静かに鋲を投げた。
「!」
「なんて凶暴な殿方でしょう。キモい上に性格も最悪となると、救いようがない」
軽くかわされ、驚く。ただの令嬢ではなさそうだ。
「お前、何者?」
「名前を聞いているのかしら。私はナマエです、イルミ様」
以後、お見知りおきを
ドレスの端を持ち上げ頭を下げる目の前の女は、どう見てもただのおしとやかな女性。
「決めた。お前を婚約者候補にしてやるよ」
「いい判断ですね、退屈させる気はありません」
「候補だから。お前以外にも居るんだよ」
「ふふ、私を選びますよ。きっと」
自信に満ちた瞳が細くなる。不覚にも胸が脈打つ。普通にしていれば可愛いのに、何とも残念な女だ。
「室内へ戻ろう」
「ええ」
仕方なくエスコートする。差し出した左手に彼女の右手が重なる。驚く程細い指。風で乱れた髪を気にする彼女を見る。……美人なのに、本当にもったいない。