長編
□第四章
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夕日を浴びながら二人は廊下を歩いていた。
「おいアリス、ところで熾羅…?とか言ったか?あいつは何処に行ったんだ?」
『……もうそろそろ帰って来る』
アリスが振り返えると釣られて政宗も振り返った。
すると空間が裂け真っ黒い何かが見えていた。
その真っ黒い何かは何処まで続くのか分からないほど深く、澄んだ夜空の様に儚く綺麗であった。
その裂け目の中から熾羅が出て来た。
「アリス様、侵入して来たのは 双子 でした」
そう言いアリスの前に立った。
『あいつ等だったのね、全く…紛らわしい』
「これ以上はまた後程報告致します」
熾羅は言い終えるとアリスの後ろにいる政宗に目配せした。
突然現れた熾羅に驚き、唖然としていた政宗だったが熾羅の目に気付き話を始めた。
「アンタの部下も帰って来た事だ、アンタ等の処遇を小十郎と考えなきゃならねぇ、着いて来い」
踵を返し歩き始めた政宗にアリスと熾羅は着いて行った。
暫く歩くと館から大分離れた場所に連れて来られた。
そこは館のように豪華な庭がある訳でもなくただ、廊下を通して繋がっている広間だった。
広間に入ると大きく伊達家の仙台笹に雀の家紋が染め抜かれた陣幕や旗、大きな日本地図や書物やらが置いてあった。
政宗が上座に座るとアリスと熾羅はその前に並んで正座した。
「アンタ等を此処に連れて来た理由…もう分かってるだろ?」
政宗の隻眼が威嚇するかのようにアリスを見つめる。
それに応じるかの如く、アリスは政宗を見返した。
戦場にて先陣を切って刃を振るう政宗の威嚇…それは只の獣が威嚇しているのとは訳が違い…独眼竜の異名をつけられた意味が嫌と言う程わかるものであった。
そして、人の域を越したものと言っても過言ではない。
だが、アリスも戦場にて刃を振るう者だ。
ただ、それがアリスの場合討伐すべき対象が人間ではない。
そのためアリスには、気迫で政宗に勝てる訳がない。
暫く睨み合っていたが、アリスが目を背け負けてしまった。
『くっ………』
「アリス。アンタ…中々やるじゃねぇか!それだけできりゃああいつも文句が言えねぇな」
政宗が笑う。その笑顔はアリスに期待しているかのようであった。
「失礼します」
礼儀正しい言葉と共にゆっくりと襖を開け入室してきたのは今朝の片倉小十郎だった。
「小十郎、お前はここだ」
政宗が自分の右側を親指で指し座るように促された。
小十郎が政宗の右側に正座した。
「小十郎…お前を呼んだのはこいつの処遇についてだ」
政宗がアリスを見つめる。
そして小十郎もアリスを見た。
「アリスを雇う」
……………
政宗の言葉により部屋が沈黙に包まれる。
だが、小十郎がそれを破った。
「しかし政宗様!この様な何処の娘かも分からぬ者を雇うなど…」
「何処の娘かもしれない奴だから雇うんだ…今は一人でもFellowが必要だ…それに、こいつは行く当てがないらしい」
小十郎の反論を遮り政宗が腕を組みながら言った。
「何よりこいつが雇ってくれと言ってきたんだ」
小十郎が頭を抑え考える仕草をし溜息を吐いた。
そして立ち上がり側に立て掛けてあった木刀を二本掴むと一本をアリスに投げた。
「そんなに雇ってほしいなら表へ出ろ、てめぇの力を見てやる」
小十郎襖を開けると暖かな春の光と広く手入れされた庭が広がっていた。
外に出た小十郎を追いアリスが渡された木刀を片手に外に出た。
「熾羅、靴を出して」
後ろから付いて来た熾羅が何処からとも無くアリスの靴と思われる物を出した。
アリスはそれを履くと小十郎の前に立った。
「手加減はしねぇからな、お前も全力で来い」
小十郎が構えて言った。
彼の周りからはバチバチと凄まじい気迫が滲み出ていた。
『こんな物で本気が出せるかは分からないけど…まあ良い…全力で行こう』
アリスは半身になり刀身を隠し低く腰を落とし、居合の様な構えをした。