捧げ物

□満天宮御伽草子×夢想曲ートロイメライー
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社殿の前まで進んで行って、お賽銭を取り出す。

二回頭を下げた後、二人同時にそれを投げ入れた。

柏手を打てば、境内に音が響き渡る。

私は願い事を心の中で何度も繰り返した。



「よし、行こうか晋作」

もう一度礼をして、帰ろうと足を踏み出したけれど、

「……あ」

晋作は一点を見つめて立ち止まった。

「どうしたのよ?」

「お供え物じゃ」

晋作の視線を辿れば、社殿の奥に置かれたお酒やお饅頭。

参拝した人達が置いていった物かな。


晋作は社殿の中に入っていったかと思うと、その中のお酒を手に取った。

「し、晋作?」

「夕霧、せっかくじゃからここで花見をしよう」

酒も食べ物もあるしな、と言って笑った晋作は今にもお酒を開けてしまいそう。

「お供え物だよ?怒られるわよ」

「堅いこと言うな。誰も見てないから大丈夫じゃ」

……神様、この人に天罰を与えて下さい !!

心の中でそう叫んで、とにかく止めなくてはと晋作に向かって手を伸ばしたその時。


かちゃり、と音がしたかと思うと次の瞬間には、晋作の喉元に刀が突き付けられていた。

冷たい光を放つ白刃。

私は咄嗟のことに動けず、ただその刀を持った人物を見つめることしかできなかった。

海の様に透き通った青い髪。

金色に煌めく瞳。

霊気とでも言うのだろうか、神秘的な雰囲気を纏っている。


言葉を失った私達を見つめながら、少年はゆっくり口を開いた。

「おい小僧、俺の酒に手を出すとはいい度胸だな」

金色の瞳がすっと細められた。

私は少年の言葉を脳内で反復してみる。

今確かに、自分の酒と言った。

……まさかこの子、神様!?

いやいや、確かに私、晋作に天罰を与えて下さいって言ったけれど!

まさか本当に出てくるなんて……

そもそも、神様って仙人みたいなお爺さんかと思ってたのに。

目の前にいる少年は十五歳くらい。
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