番外編
□若い友情
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それから数日後、いつもの神社で寝転がってぼんやりとしていると、頭上に陰ができた。
「こんにちは、九一さん。」
「夕霧か。」
伸びをして起き上がると、夕霧が一冊の本を差し出した。
「これ、この前頼まれてた巻です。」
「おお、すまんな。」
源氏物語のどんなに探しても手に入れられなかった巻。
その話をすると、家に全巻揃っているからと夕霧が貸してくれると言ってくれた。
大事に受け取って傍らに置く。
「じゃあ私行きますね。これから塾なので。」
「ああ、また。」
境内を出て歩いて行く夕霧を姿が見えなくなるまで見送ってから、傍らの本に手を伸ばす。
自分は既に今日は塾が終わっている。
さっそく読んでみることにした。
表紙を開くと、ぽとり、と音を立てて何かが落ちた。
「何じゃ?」
拾い上げてみると、それは花だった。
白い小さな花。
「……日々草、か?」
幼い頃に母上に連れられて行った植物園で見たことがある。
母上に教えてもらった花言葉は確か――…
「若い友情……、か。」
花を手の上に乗せて考える。
出会った日以来、夕霧とは塾でも何度か顔を合わせた。
それでもお互い挨拶を交わす程度だった。
二人が言葉を交わすのは、この場所でだけ。
そういう友情も、悪くないと思った。
【終】