捧げ物

□満天宮御伽草子×夢想曲ートロイメライー
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薄紅色の花が咲く季節。

風に舞う花びらが辺りを彩る。

周りの田では、田植えをしたばかりなのかまだ細い苗が並んでいる。



そんな景色の中を、私は駆けていた。


「晋作、早く早く!!」

立ち止まって後ろを振り返ると、三味線を背負って少し後ろをのんびり歩く晋作の姿。


晋作は前を行く私を見てからからと笑った。

「夕霧、そんなに急がなくても花は逃げたりせんぞ」

「分かってるわよ、でもやっぱり楽しみで」


一緒に町へ行った帰り道、桜を眺めながら歩いていたらお花見がしたいねという話になった。


それなら久坂達も誘おうということになって、今は皆に声を掛けに行く途中。


皆で食べる用にとお団子も買って、お花見をしながら唄うつもりなのか、晋作は三味線まで持ち出してきた。


再び走り出そうとくるりと回った私の目に、微かに何かが写った。

「あれ……?」


「どうかしたか、夕霧?」


追い付いて来た晋作に、私は尋ねた。


「晋作、こんな所に神社なんてあったかな……?」

「神社?」


私達の視線の先には階段とその向こうに朱色の鳥居。

上部の額束に刻まれた"満天宮"の文字。


「本当じゃな、全然知らんかった」

鳥居を見上げる晋作。


「ねえ、お参りして行こうよ」


そう言って私は階段に足をかけた。


「早く花見に行きたいんじゃなかったのか?」


「せっかくだからさ、ほら、行こうよ」


そう言って私は階段を上っていく。


晋作も上ってくる音がして、二人並んで上っていく。

階段を登りきると目の前に現れたのは
参道の脇に植えられた大きな桜の木。

淡い陽光に照らされた枝が小さく揺れて、花びらが参道を白く染める。



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