flower 〜名探偵コナン 短編集〜

□rain
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雨が降る。


人々は突然の雨に戸惑い、先ほどまで青が広がっていた空を睨みながら駅で雨宿りしていた。

志保もその一人だった。

博士に手伝ってほしいと言われ、ついて行った学会の帰りの途中。

天気予報ではずっと晴れだって言ってたのに。


傘は持っていない。


そういえば…。



あの日も雨が降っていた。

あの日も傘を持ってなかった。


死のうと思ってAPTX4869を飲んだのに体が縮み必死の思いで脱出した、あの日。

とにかく組織の人間が見つけにくい場所へと走ると、足は自然に彼の家へと向かっていた。


どうして彼を頼ろうと思ったのか分からない。

彼に会ったところで、助かるであろう確率は低い。

なのに…なんで彼の家に向かったのだろう。


でも、彼を訪ねて正解だった。


『心配すんなって』

『独りじゃねーって言ったろ?』

『逃げるなよ、灰原…』

絶望の雨の中にいた私に、傘をさしてくれた。

優しくて、強い笑顔を浮かべて。





(帰ろうかな…)

灰色の空から落ちる雫は、やみそうにない。

早く帰らないと、晩ご飯の時間だ。

走れば大丈夫だろう。


一歩踏み出すと、志保は雨に包まれた。。

(雨は嫌いだわ…)

孤独。

そんなはずじゃないのに、その二文字が頭に浮かんだ。

その時。

「志保」

自分の名を呼ぶ声と共に、雨が止んだ。

目の前には、彼。


「工藤…くん」

肩で息をする彼は、紺色の傘を私にさしていた。

「急に雨が降ってきただろ?志保、傘持って行ってねーなって思って」


そう。

どうしようもない孤独、寂しさを抱いてしまう時。


昔から傍にいてくれるのはあなた。

傘をさしてくれるのはあなた。


あなたがいれば、私は何もいらない。
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