短編置き場

□あなたとの未来を描いて
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“おかけになった電話は電波の届かない場所にあるか、
電源が入っていないためかかりません”

すでに飛行機に乗っているからなのか。
補助監督に行き先を聞くもはっきりしない。

海外任務。一度つくと数か月は戻ってこれない。
日本の閑散期によく派遣されるが、
僕に回ってこようとしていた任務だろう。

断ったとはいえ、ありえないだろ。
断る理由になった張本人が居ないとは、
本末転倒もいいところだ。

上層部に電話を掛けるも、つながらない。
いや、分かっていて出ていないんだろうが。

高専に戻ったらただじゃ置かない。
任務に行かせたのが誰かなんて目星はついてる。

昨日、執拗以上に僕に付きまとってきた奴のジジイだろう。
イラつくなあ、本当。
ただでさえ春香が大事だと自覚してからここ数年は
女性と遊ぶことなんてしていないのに、
胸を押し当てられ妙に性欲を刺激されて更にいらだちが募る。

任務地に着いて一瞬で終わらせて高専に急いで向かう道中も、
春香のことで頭が一杯だった。

「クソ」
ゆっくり進めようなんて思っていたのが馬鹿らしい。
こんなことになるなら、早く伝えておくべきだった。

運転する補助監督がびくびくしていたけど、
苛立ちを収めることができなかった。





「で、春香の任務の詳細は何ですか?」
恐らく今回の件の原因となった上層部の部屋に乗り込み、
開口一番に問い詰める。

「まあまあ、五条。落ち着いてくれ」

「僕はいたって冷静です。
中院家だって所在を知らされていないらしいですね。
そりゃ心配になりますよ」

「確かにワシが任務の話を回したが、
決めたのは本人だからなあ?」

「だから?」

「五条、そもそも君は彼女との婚約は本気ではなかっただろう。
彼女もそれはわかっていたようだし、
もうここ数年は公式な場に二人で出ていない。
家同士は違っても、世間では婚約の話も有耶無耶の状態だ」

「何を仰りたいのですか」

「中院春香が今回の話を受け入れたということは、
そういうことだろう。
君との婚約を破棄するに同等のことだということだ」

「へえ、たかだか任務受けただけで
そういう意味があるとは知りませんでした」

「現に期限を設けられないほどの海外遠征だ。
いつ帰ってくるともわからない、出発前に連絡も入れない、
そんな奴など忘れた方がいいだろう?君の歳を考えれば。
どうだった、ワシの孫は。昨日会っただろう?

君のことを大層気に入っていたよ。
ワシの孫は、顔良し、器量よしで申し分ないはずだ」

話にならない。
場所も聞き出せそうにないし、ここに居るだけ無駄だ。

「残念ながら、僕には大切な婚約者がいますので。失礼します」

「待て、五条!」
扉に手をかけようとしてクルリと上層部の方を見る。

「なんだ、考え直してくれたか」

「いえ。お孫さんに伝えてください。
もう香水つける量、考え直した方がいいですよ。
あれは鼻が曲がります。品も糞もない。
あとそうそう、差し出がましいようですが…
僕の必要な買い物に勝手に、ついてきたのに
勝手にワガママ言って勝手に怒って、クソ迷惑でしたんで、
もうちょっと、いや、だいぶその性格なおさないと、
ご結婚“してくれる”相手も見つからないかと」

そう言い残してすぐに部屋を出た。
後ろで怒鳴り声が聞こえるが、そんなもの気にしない。
春香の電話に掛けるも、未だつながらない。
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