短編置き場

□選ぶのは。
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※術式適当


呪術界を半ば無理矢理やめて、
はやいことで5年目に差し掛かった。

同時に、当時お付き合いをしていた、
大好きな人ともお別れした。
色々疲れて、生きていることすらも
投げ出したくなっていた。

これでよかったと、思っている。

未だに、幸せな記憶は色あせない。
いつか、次にいけたらそれでいいと思って
5年たとうとしている。

はあ、とため息に近いそれを出すと、白い煙が宙を舞う。
冬の白い息とタバコの煙が混ざって消えていった。



あの世界で生きていくのが向いていないと
わかったのは、高専に入ってからだった。

呪術界でも中流階級程度の家柄で、
父は上層部と反りが合わない類の人間だった。

血のにじむような努力をしても、
思うように昇級できなかった。

家への嫌がらせなのか、
推薦が来てもことごとく落とされた。

どこが悪いのかもフィードバックされず、
査定任務は何事もなく成功しているのに。
一体これ以上、何をどうすればいいんだ。
そんな状態が続いていた。

そんな3年生を迎えたときに
呪術界を揺るがす才能の塊2人、
そもそもチート級最強が1人入学してきた。

あれよあれよと、夏油君と五条に肩を並べられた。
先輩なのに、先輩と思えることが何一つなかった。


『付き合えよ』
4年の夏前に、五条から言われた。
この生意気な後輩に先輩を敬えという方が難しい。

『どこに』
そもそも、敬えなんて言うのがおこがましいほど
実力差があるのはしっているので何も言わない。
問いかけられたことに、至極当然のように答えた。

『馬鹿にしてんのか』

『え?さっきのどこにそんな要素があった?』
ちょっと不機嫌そうにしている五条。

何がダメだったかなんて、
こいつに思考を持っていかれるのは
ナンセンスだと思考を強制的にストップさせる。

『俺と、付き合って、ください』
今度はちゃんと顔を真っ赤にしている五条の顔をみて、
ああ、そういうことか。

……………なぜ。
好意を向けられるところなんて、今まであったけ。

『ええっと、考えさせてください』
頭の整理が追い付かないから、時間が欲しい。

『なんで』

『なんで、といわれても。後輩としてしか見てなかったし…』

次の日から五条の猛アタックを受け、
絆されて付き合うことになったのは
告白を受けてからそう遠くない未来だった。




『五条悟とつきあっているんだって?よくやった!』

どこから聞いたかわからないが、
家の行事で帰ってきた私に父からの珍しいおほめの言葉。

私の頑張りにはほめたこと、ないくせに。
誰のせい昇級しづらくなったと思ってるんだ。
任される任務は1級ばかりなのに、未だに2級のままだ。

交際から2年。
高専を卒業し、1年半がたったときだった。

五条は4年に上がり任務に専念し、
お互いが忙しく月に一度顔を合わせるかどうか。

五条を好きだという気持ちに嘘はない。
だけど、付き合う前の立場はすでに逆転している。
最初は合わせてくれていたことも、
そうではなくなってきた。

付き合いが長くなると、そんな些細なことは
何ら不思議ではないとは分かっているのに
心にもやがかかり、晴れないまま過ごしていた。

2個も上なのに五条の足元にも及ばない自分に
劣等感をいだき、父からはなぜ昇級しないのかと言われ
“お前のせいだろ”と言い返せず情緒不安定になって、
ある人からは釣り合わないといわれ、
五条との距離を勝手に感じるようになった。

五条とデートをした回数は、
2年たっているのに片手ほど。

五条の成人が近づくにつれて、
外野がうるさくって仕方ない。

本当に結婚するのか、
とか子どもはどうする予定だとか。

そもそも、
結婚の話だって五条がどう考えてるかなんて知らない。

月に1回、2回会えばいい方。
そんな少ない時間で話すタイミングがない。

携帯では最低でも数日に一度は連絡を取り合うけど。
付き合う前は毎日用もないのに連絡を
くれていたことが懐かしい。

今は、私が面倒な女にならないように
細心の注意を払う。


お互いの出張ですれ違うため、
私の家の合鍵は渡している。

前は部屋に入る前に連絡がきていたけど、
今となっては連絡なしでも使っている。

出張から帰ってくると部屋が少しゴチャっとなっている。
きっと朝ぎりぎりになってしまったんだろう、
いつもはきれいに整えてあるのに。

分かってはいる。
だけど、出張帰りの私だって疲れている。

何故人から散らかされている部屋を
疲れているのに掃除しないといけないのか。

余裕がないからイラついていると、
冷静に思う反面とても腹が立ってしまう。

「生理前だからかな〜、あ〜なんで〜私が〜」
誰もいない部屋で盛大な独り言を言いながら、
ゴミ袋を持って歩き回り、出張の荷物をほどいて
洗濯機を回して、一息つく。

『お疲れ様。
今日、学校で七海と会ってお土産もらったよ。
家に置いとくから食べてね』
“あと、前もってこの部屋の状態ゴメンとか言えなかったの?”
とは書けなかった。

イライラするな、落ち着こう。
ゆっくりしようと、風呂に入る。

お風呂から上がって携帯を確認すると
五条からの不在着信があった。

折り返し発信するも、つながらない。

その月は、すべてタイミングが悪く
ついには声を聴くこともなかった。
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