短編置き場

□咲いているのは
1ページ/1ページ

※弱気な五条さんです
※ほのぼの系です
※同級生(25歳ぐらいな世界線)




最近、悟の様子がおかしい。
避けられているような、一緒に居ても心ここにあらず、な気がする。

…もしかして浮気?可能性は十分あり得る。
悟が私に飽きた。
もしくは悟にそのつもりがなくとも悟には数多の女が寄ってくる。
そこで一度ぐらい何か起こってもいたし方ないだろう。


――――――――――――――――――――――――――――――

付き合ってもう5年。
悟の部屋で半同棲、いやほぼ同棲状態で3年たった。
最近は2人の時間がないほど忙しい。

普段なら、私より忙しい彼のために私ができる限りのことはしていた。
家事すら回らなくなるほど出張が重なり、久々にお昼に帰宅できて
寝落ちしてしまったとき、「え、ごはんできてないの」と言われた
ときは、あと一歩で“自分でやれよ”と言いそうだった。

喧嘩なんてしたくないし、悟の方が忙しいのはわかっているので
なんとか飲み込んで悔し泣きを我慢しながらキッチンに立ち、
たまった家事をこなした。

悟だって我慢しているところはあるだろう。
だけど圧倒的に私の我慢で成り立っていると思うと、
“どうしてこの人と付き合っているんだっけ”と考える。

それでも、数日たてばやっぱり悟じゃないとダメだと思って
自分が悪かったんだと反省する日々を繰り返した。

今年はとりわけ長かった繁忙期が終わりを告げて、冬が始まった。
ようやく私にも余裕が出てきて、二人で家に居る時間も長くなって
やっと落ち着けると思った矢先。あの悟の態度だ。

愛想つかされてしまったかもなあ。
すっかり、求められなくなってしまったし。

数か月触れらていない。
以前は、週に数度も求められていたのに。



「悟、今日は遅いの?」
「うん」
「ごはんはいる?」
「言わなかったっけ、今日会食」
「分かった」
「行ってらっしゃい」
「うん」

いちいち“聞いてない”なんて言って朝から不機嫌にさせるのが
面倒で余計なことを言わないように努めた。
家事なんて私がせずとも悟だってできる人だ。
私が居なくたってなんでもできる人なんだ。
なのに、私がやっていないと文句を言う。
私はあなたがやっていなくても文句なんて言ったこと、ないのに。

分かっている。この家は悟の家だ。
嫌ならば来なければいい。
私の家だって保険をかけて残しているし。
だけど、悟は私が部屋に居なかったら物凄く不機嫌になる。
明言されたことはない。

だから、悟はずるいのだ。
私に何も言わせない。
何か言えばきっと、私が勝手にしたことだというだろう。




―――――――――――――――――――――――――――――――


「ただいま」

「おかえり」

リビングのドアを開けた瞬間、明らかに女ものの香水の匂いが漂う。
そんなもの、ぷんぷん匂わせて帰ってこないで。
くさい。私が香水苦手なの、知ってるくせに。

「お風呂わいてるから、先に入ってきたら?」

「そうする〜」

とにかく、匂いに耐えられず先にお風呂に促す。
先ほどまで、悟の腕の中に女でもいたんだろうか。

想像した途端に気分が悪くなる。
ダメだ、悟に触れられない。

「春香?」

お風呂から上がってきた悟が
ソファーにうずくまっている私に手を伸ばす。
その手に触れられるのが怖くて逃れるように立ち上がる。

「ごめん、先に休む」

悟の返事を聞かずに、寝室に逃げ込んだ。
寝室にはあの匂いが入ってきていないので安心した。
クイーンサイズのベッドに寝転がって無理矢理目をつぶる。

「春香、何かあった?」

私のことを心配してか悟も寝室に入ってくる。
お願いだから今は一人にしてほしい。

「春香」

私の名前を呼ぶ声が、熱を帯びているのがわかる。
え、さっきいたしてきたのでは…?
私のわき腹からシャツをめくろうとする。

「ちょ、今日は無理」

「……」

「そんな不貞腐れた顔しても、無理だから」

あんなに気分が悪かったのに。
私に拒否られて不貞腐れている悟のを顔を見ると、
少しだけ気持ちが軽くなった。

私も相当、イカれている。

「……春香、浮気してないよね?」

「は?どゆういうこと?」

そのセリフは、そっくりそのまま返したいんだけど。
せっかく幾分か心が楽になったというのに、
この目の前の男は蒸し返してくる。

「だって、ほら。最近シてないし」

「それは、悟もじゃん」

「僕は、春香だけだもん」

「よく言うよ。
今日だって女ものの香水の匂いぷんぷんさせて帰ってきたくせに」

「は?それは会食相手がきつかっただけ」

「いやいや、ただの会食で服にあんなにうつらないし」

この際、どうとでもなれと我慢して言わなかった言葉が出てくる。

「信じてないんだ?」

「そっくりそのまま返すんだけど」

私たちは、喧嘩をそんなにしたことがない。
一番多かった時期は付き合って1年たったころから2年目まで。
それでも、片手に足りるほどの回数だった。
そのころは、言いたいことを全く言えずに一方的に攻められてた。

そもそも喧嘩があまり好きではない。
せっかくお互いの時間をそんなことに費やしたくなかったから
甘んじて受け入れていた。

3年目に私がブチ切れて爆発して家を飛び出たことがある。
私のブチ切れる姿を初めて見て呆気に取られていた。
これは相当のことだと思ったのか、結局は悟が折れて迎えに来た。

それ以来、喧嘩なんてしたことない。


数分の無言が包む。

「何も言わないなら、今日は気分悪いから家に帰る」

お風呂も入って寝るだけなのに。
自分の部屋まで帰ろう。
こんな怒りの状態で一緒の空間に居れない。

「まって。ごめん、怒んないで」

寝室のドアに手をかけたときに後ろから手が伸びてきて
ドアを開けるのを阻止される。


「ごめん、さっきのは僕が悪かった」

「…いいよ、わかったから。手外してくれない」

「離したら帰るでしょ」

「………」

「ほらー。何もしないから、約束するから一緒に寝よう」

「わかった」

正直怒りが完全におさまったわけではないけど
ベッドが大きいので離れることもできるし、と再びベッドに戻る。

「…最近、春香がさ」

一緒にベッドに入って、いつものようにはくっつきはせず
少し離れて横になっていると悟が話し始める。

「うん、私が?」

「ちょっと、冷たい、というかドライだなって」

「…そう、かな」

もしかしたら、私の態度が原因の一つであるなら
私にも反省すべき点があると心が重たくなる。

「…僕が居なくても、生きていけそうだなって」

「どゆこと」
ゴロンと悟の方へ横向きになる。

「僕は春香じゃないとダメなのに。
春香がちっとも甘えてくれなくなったから」

額に腕を乗せて、目をつぶって話す悟が視界に入る。
思い返せば今年の繁忙期が忙しすぎて、
常に仕事もモードから抜け出せない日々を送った。
それを境に、繁忙期が終わった今でも甘えていなかったな。

「それで?浮気してるって思ったの?」

「ううん、春香はそんなことしないってわかってるよ」

額に置いていた腕を戻して、悟もゴロンとこちらに横向きになる。
寂しそうな表情を浮かべる悟に、手が伸びる。

「心配しなくても、ずっと悟だけだよ」

私の手に、悟の手が重なる。

「僕よりいい人なんていない?」

「当たり前」

「…僕だけの春香?」

「そう、悟だけの私」

私たちが付き合う直前。
私が付き合っている人がいると噂が流れた。
助けた人がお礼をしたいといってしつこすぎたので、
一度だけランチをした日は、こんな冬の日だった。

それをたまたま見かけた悟が大騒ぎしていた。
それをきっかけに付き合うことになったんだけども。

どうも、この時期はおセンチになるらしい。
たしか付き合って1年目も2年目も3年目も、この時期に喧嘩をしたなあ。
せっかくの記念日なのに、と思っていたけど。
そっか、付き合って5年目にして腑に落ちた。

あの出来事が軽いトラウマになっているんだろうか。
たった一度、付き合ってもいない頃にランチに行っただけなのに。
昨年は、私からよくくっついていたのもあって特に何もなかったんだろう。

「春香、やっぱりギューだけしていい?」

「えー」

「春香〜」

弱気な悟は珍しい。いつも強気で、あふればかりの自信の塊なのに。
私の名前を呼びながら子どものように悲しんでいる悟に、
私から抱き着きたいと、起き上がって悟の方になだれ込む。

「好きだよ、ずっと」

「ありがと、私も好きだよ」

私の体重なんて感じていないかのように平然と抱きしめ返して、
耳元でささやかれる。
こういった甘いのは恥ずかしくて慣れないけど、私も悟に伝える。

「でも、今日の香水のあれは本当に嫌だった」

「ごめん。信じてもらえないかもしれないけど、本当になんもないよ。
あいつが勝手に抱き着いてきただけ」

「抱き着かれたんだ…」

「無下限で触れてすらないけど、距離が近かったから」

「そういうことにしといてあげる」

「春香〜、信じてよ〜」
再び泣きながら私を抱きしめる腕の力が強くなる。

「ちょっと、悟。くるしいから」

そういうと、少しだけ緩む力。
この際、普段言えなかったことを言ってしまおう。

「ねえ、悟。私が仕事モードから切り替えうまくいかないときは
これからもあると思う。それでもいいの?」

「それでも、春香がいい」

「……今まできちんと言えなかったけど」

「え、何言われるか怖いんだけど」

「…これからのことを考えると、悟もほんの少しだけでいいから
家事とか協力してくれない?
もちろん、悟の方が忙しいのは重々承知だし、普段の家事は問題ないよ。
私が立て続けに任務行ってるときとかは、自分で自分のことをできるだけ
してほしいの。一人暮らしと変わらないことをしてほしいだけなんだけど」

「今年の繁忙期、長かったよね。そのとき思ったんだ。
いつの間にか春香に頼り切ってるって。ごめんね」

「ううん、私こそ不出来でごめん」

「そんなことない。春香は頑張ってくれてる」

「そうかな」

「うん、いつもありがとう」

久々に、こんなに落ち着いて話ができている。
お互いゆっくり話し合う時間は必要だと、再確認した。

「これからは、ちゃんとゆっくり話時間とろうね」

「それは僕も賛成」

ゆっくりと触れるだけのキスをして、
悟の腕枕で幸せな温度をかみしめて眠った。


咲いているのは

恋の花。愛の花。











▼おまけ?


「ちなみに、あの男の連絡先は削除してるし何もないからね」
「え?」
「あの日のこと、まだ覚えてるんでしょ」
「そりゃあ春香と付き合うきかっけだったし」
「私が好きなのは、悟だけだから」
「春香…」
「……悟は浮気しても、私に絶対バレないようにしてね」
「なんでそんなこと言うの、しないよ」
「分からないじゃん、そんなの」
「やきもち?」
「それとはちょっと違うかも。
悟が本気で他の誰かを好きになったら、しちゃうかもだけど」
「???」
「浮気って、魔がさすっていうじゃん。
魔がさして間違っても私にはバレないようにしてね。
じゃないと、一生悟を触れなくなる」
「やめてよ。僕は春香さえ居てくれて
こうやってぎゅってしてくれるだけで幸せだよ」
「…ありがと」
「これからも僕の隣に居てね」
「もちろん」


2021.0509 更新



[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ