短編置き場

□いまでもあなたが好きです
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『もう、無理なの。ついていけない』

高専を卒業した日に、私が自分の手で手放した。
なのに、9年たった今でもあなたを好きと言ったら
馬鹿だなと笑ってくれるでしょうか。

悟との出会いは、彼の10歳の生誕パーティーだった。
かつては栄えていた家系、
今では落ちこぼれと言われている私の家もお呼ばれした。

過去の栄光を取り戻すために必死な父に連れられてパーティーに出席した。

誰も落ちこぼれの家の子を相手にするわけもなく一人でポツンと
会場の隅にいたけれど、暇だしちょっとぐらいいっかと散歩に出た。

冷たい夜風に当たっていると、後方からカサカサと音がする。
何だろうと目を凝らしていると、悟が出てきた。
相変わらず、のみこまれそうなほどの端正な顔立ちをしている。

『あ、五条悟』
『げ、』
『あからさまに嫌な顔しないでよ』
『……』
『まあ、あんなところ息詰まるよね』

邪魔してゴメンね、とその場を立ち去った。
それにしても、きれいな瞳だった。

あれから何もなく中学校に上がり、家の任務を捌く毎日が訪れた。
その日は、2級を任されたはずなのに
いざふたを開けてみると変異型の1級。
この分じゃ、特級クラスになってしまうかもしれない。

『やばい、これは死ぬかも』

帳の中を満身創痍になりながら駆け抜ける。
携帯で応援を呼んだけどそれなりに時間がかかるだろう。
先ほど受けたダメージでこれ以上は走れない。
木の陰に身を寄せるも、見つかるのは時間の問題だろう。

近づいてきている。
死を覚悟したときにあっという間に祓ってしまったのが悟だった。

『おい、生きてるか』
差し伸べられた手を握って立ち上がる。
こんな風に助けられて、
この人に落ちない人が居れば挙手して教えてほしい。

『うん、なんとか生きてる』
『そ。まあ、よくやった方じゃね』
『なにそれ、ほめてんの?』
『おう』
『…それはありがとう』

たまたま近くを通って異変を感じたから寄ったとのことだった。
それをきっかけに連絡を取るようになって
愚痴を言い合う仲になるまでそう時間はかからなかった。

高専に入って、久々に悟と再会した。
記憶の中の彼とは、もう背丈がずいぶん違う。

『よう、久々』
『うん、久々〜。背伸びたね』
『お前もな』

才能の塊たちに囲まれて、元からそんなになかった自信を完全に失った。
隠れて吐くほど鍛錬を積んでも、差は埋まらないどころか開く一方だった。
それでも下を向かずに、何とかやってきた。

2年に上がった時、天内さんの事件が起こった。
私は地方に任務に行っていたので居合わせることはなかった。
悟が死にかけたと、硝子から聞いたときはショックだった。

あの、悟が。
居てもたってもいられなかった。
何かあるにしても、私の方だと思っていたのに。

当たり前に明日があるわけではないのだと、
それは悟も同じことなんだと。

『悟のことが、好きです』

衝動的に告白した。
悟が私をどう思っていようと、
この気持ちを伝えておけばよかったと思う日が来てほしくないと。

そんな衝動的な告白に目を丸くしてくしゃっと笑って返事をくれた。



いまでもあなたが好きです
(こんな私を、バカだと言って笑ってください)



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