短編置き場

□二度と隣には立てないというのに
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悟がいて、夏油がいて、硝子がいて。
そんな毎日が幸せだった。
才能の塊の中でも、精神をうまく保ってやってこれていた。

家の繁栄を取り戻したい父。
腐っても名家に産まれた私が、一般家系の出身には負けてはいけないと重圧をかけてくる。
そんな中、よき理解者となって精神的な支えになったのはまぎれもなく悟だった。

『生まれたときの才能で決まってんだ、お前が気にすることじゃねーよ』
『だよね〜』

付き合ってはいたものの、接し方は今までとほとんど変わらなかった。
二人だけのときだけは、みんなの前では想像できないくらい優しかった。

だけど、その幸せな日々はそう長くは続かなかった。


夏油が離反した時は、一緒に泣いた。

『なんで、春香が泣くんだよ』
『悟がそんな顔してるのに、泣かないから』
『んだよ、それ』

せっかく、我慢してたのに私の涙でもらい泣きをしていた。
鼻をすする音が二つ、部屋に響いていた。

『お前はいなくなるなよな』
『うん』


夏油が離反をしてしまってから、やけに上層部たちが悟の将来へ
口を出すようになった。

『五条悟には、次世代の優秀な子どもを望んでいるんだ』
『わかってるね』

呪術界の重鎮でも手を焼くほどの性格の持ち主には一切を言わず、
私にターゲットを絞ってきた。

驚くほど理解できた反面、悟が私の隣からいなくなってしまうことが耐えられないと
悪あがきをしてしまった。

『すこし、時間をください』

こんな理不尽なことに、反論できなかった。
受け入れて、なおかつ悪あがきのように時間をください、なんて。

悟に切り出そうにも、言葉に詰まり結局言えずに終わる日々が続いた。
なにしてんの、できなければなんでもやってくる奴らだよ。
早く言わなきゃ、と思う反面あの時の約束がついて回る。

“お前はいなくなるなよな”
私から悟を奪わないで。私にあの日の約束を、破らせないで。
このまま時が止まればいいのに。
そんなことを思っても、残酷に時は刻まれていく。

家への圧力がかかりはじめたとき、
もうこれ以上そばに居れないのかと絶望に近い感情に襲われた。

そのあとすぐに言い渡された任務は、長期海外任務だった。
自然消滅しろってことなのか。
上層部は、物理的に引き離しにかかった。

海外任務につく直前に走って会いに来てくれた悟に
人目もはばからず今生の別れのようにギュっと抱きしめた。

本当に、お別れになるとは知らない悟は通常運転だった。
『こんなところでくっつくなよ』

そうやって言いつつも、抱きしめ返しくれた。

『バイバイ』


引き離されている間にも、悟には家を介して縁談の話がいくのだろう。
悟だって家を通されれば無下にはできない。

帰ったとき、他の誰かが隣に居たらどうしよう。
ちがう、そうじゃない。私は、あきらめなければならないの。




二度と隣には立てないというのに

(あなたの隣に他の誰かが居ると思うと苦しくて息ができない)



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