短編置き場

□そう簡単に、嫌いになんてなれないよ
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帰国したのは、卒業間近の2月だった。
約半年もの間、海外を転々とさせられて危ない橋もわたった。
幸いにも大事に至ることはなく、今日も生きながらえている。

たまに来る悟からのメールには、返事ができなかった。
きっと、上層部たちはあの手この手で監視をしているだろう。
私は返事をしていないのに、また届くメールをみて罪悪感を募らせていった。

硝子にはたまに生存報告をしていたので、伝わっているだろう。

そのうち、メールも届かなくなった。
私が望んでいたことなのに、勝手に悲しくなった。
ただでさえ、こんな長期任務も初めてで心細いのに。
悲しみさえも襲い掛かってくる。

卒業式の日まで悟と会うことはなかった。
悟も、私が帰国すると同時に国内の長期出張を言い渡されたみたい。
どこまでも、私たちを引き離したいらしい。

卒業式まで後数日というところで硝子と久々に会った。
『で、どういうことだ?』
『そのまま、言葉の通り』
『何があった』
『何も。悟を好きじゃなくなっただけ』

もちろん、海外任務中の話になった。
硝子からの疑いの眼差しをそらすことなく答える。
硝子にはさとられてはいけない。

『マジか』
『大マジ』
『春香からの返信がないって、荒れてたのなだめる苦労したっつーの』
『それはごめん』
『とにかく、ちゃんと話し会えよ』
『うん』

硝子には悪いけど、上層部とのゴタゴタに巻き込みたくない。
家にまで圧力をかけてくる奴らだ。
硝子のこれからの将来を考えれば、巻き込まないに越したことはない。

この事実を知っているのは、上層部と私だけでなければならない。
どこから情報が漏れてしまうか分からないし。
もし、情報が漏れたときに真っ先に餌食になるのは私の家だ。

再興を目指す父の足かせにはなりたくない。
厳しい父だって、私の家族だ。
悲しませるようなことは避けたい。


卒業式当日。
やっと悟と顔を合わせるも、こちらを見向きもしない。

『悟、話があるからいつものところでまってる』

決着をつけなければいけない。
きっと返事なんてしないから、そのまま立ち去る。
来なかったらどうしよう、着てほしくなんてないと矛盾した気持ちがせめぎ合う。

いつもの場所で、座って待つ間は悲しみであふれかえった。
告白をしたこの場所で、終わりにするなんて。
あの時の私は一ミリも考えていなかった。

足音が聞こえる。この歩き方は悟だ。
ついにこの時がきてしまった。強くあれ、負けるな。
幸せな思い出には、今だけは固く栓を閉じて。

そう言い聞かせて後ろを振りむく。

『話ってなに』

その不貞腐れた顔が、最後になるなんて。

『は?お前自分で言ってる意味わかってる?』
『あーあ、そうかよ。んな自分勝手な奴だと思わなかった』
『あの約束、ガチにした俺が悪かったな』
『じゃーな』


私と悟が話した、最後の日だった。
違う、そうじゃない。本当は隣に居たいの。
下唇をかみしめて、立ち去る後姿が見えなくなるまでその場に立ちすくんだ。


そう簡単に、嫌いになんてなれないよ

(全部君が初めてだったんだもん)



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