短編置き場

□これから出逢う全てのものを、君に重ねていく
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最近、やたらとこの国に滞在する窓が連絡をしてくる。
急ぎ連絡された場所に向かうも、ただの食事だった。

これは、きっと好意の類だとわかっていても
本当に何かあってからでは遅いので呼び出しに応じるほかない。

日本の窓とは違って、こちらでは呼び出しボタン式なのだ。
ポケベルかよ。個人的に連絡先を交換することもしたくないので、
甘んじて呼び出しを受けてしまう。

「ごめんなさい、どうしもお会いしたくて」
「いえ、大事ないなら帰ります」
「あ、待ってください!一緒に食事だけでも」

これで一体何度目だろうか。
初めて、次の移動指令が早く出てくれないかと思った。

「じ、実はこのお店行ってみたくって」
「そうだったんですか」

この国では、結構いいお店だろう。

告白もされないので、断るのこともできない。
仮に私から断りをいれて、
変に逆恨みでもされたら海外では私を守ってくれるものが少なすぎる。
この人に負けるとは思えないけど、もし何かあった時は自分でこの人を
傷つけなければならない。一般人を傷つけたくないというただのエゴ。

慣れていないんだろうか。
少しおぼつかないフォークとナイフ捌きだ。

ナイフとフォークを巧みに操る彼を思い出す。
『マナーはみっちり仕込まれたしな』
だるそうにしながらも、産まれを隠せないほどきれいに食べていた。

食事が終わって、コースの最後にデザートとコーヒーを出される。

「春香さんは、苦手な食べ物とかありますか」
「んー、特にありません」

「そそうなんですか。僕はですね、実は甘いものが苦手でして」
『甘いもの食いたい』

「よろしければ、僕デザート食べてください」
『春香のデザートもよこせ』

「いえ、一つで十分ですので」
「あ、そうですよね。すみません。自分で頼んでおいてお恥ずかしい限りです」

「そういう時は、コースを頼むときに伝えると
たいてい他のメニューに変えてくれますよ」
彼のお皿の上にはきれいにデザートが乗ったまま、席を立つ。

「ここは、僕がお支払いします」
『あ、財布出すな』

「そんなわけにはいきません」

「でも、僕が無理言ってお誘いしたのに」
『いいから、出すな』

「私もお腹はすいていたので」

「わかりました」
『お前に財布出させるほど困っちゃいねーよ』

目の前の窓の男性が私に熱い視線を送ってくるおかげで
勝手に彼との記憶と重ねている。

帰りに何かあってはいけないので、送りますと伝えると
嬉しそうにほほ笑んだ。

いたたまれなくなって、視線を前に外す。
そういえば、こうやって車道側を歩いていると必ず腕を引っ張られて
位置を交代させられていたな。

『お前は内側。わかった?』

横に居る男性は、嬉しそうに歩いていた。
これから先、私は一体どれだけの人に彼を重ねて生きていくのだろうか。


これから出逢う全てのものを、君に重ねていく
(前に進むどころか、むしろ…)



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