短編置き場

□何度もあなたを忘れようとしてるのに、やっと忘れかけてたのに
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やっと、移動指令が届きホットする。
もう、あの熱のこもった視線を浴びることはしばらくなくなるだろう。

次にいった国では、調査を含め難航し休む暇などなく忙しい日々で
あの夢を見ることもなかったし、不意に思い出すことなんてなかった。

またすぐに移動指令がきた。
この国では、3か月前に災害がおきて呪霊が大量に発生している。
災害が起きたということで治安もかなり悪い最前線に立たないといけない。

一瞬のきのゆるみが、自分の身を亡ぼす。
気を緩めることができない日々を送って、今を必死にしのいでいた。
ひと段落がついたころ、報告書を上げるとすぐに連絡が入る。

「夏油に大胆な動きがあった。日本で加勢しろ」
その一言で、日本に戻ることになった。

一気に現実に引き戻された。
日本に帰れることは単純にうれしい。
だけど、長い海外生活で会わなかった彼に会う確率が格段に増えることが怖かった。

久々に日本行きの飛行機に乗り込む。
嬉しいのに。うれしくない。

上は勝手だ。知っている。
だけどやるせないこの気持ちをどこにぶつけたらいいか、分からない。

成田に着くと、迎えの車に乗り込む。
本当に帰ってきた、んだ。

最前線で気を張っていたからか、やっと安堵感がやってきた。
その日は家に直帰していいとのことで、ありがたくそうさせてもらった。
久々に会った家族は、記憶の頃より少しだけ老けていた。

「よく、もどった」
「はい、戻りました」

海外にいってから、父はかなり丸くなった。
私の身を案じてくれているようで、少しやつれている。

「しばらくは日本にいれるんだろ?」
「なんとも言えません。明日話を聞いてからになるかと」

「あいつ等め」
上層部への怒りを露わにする。
それもそうか。これだけの遠征に行って功績をあげていても一向に
昇級もしない。万年2級どまりだ。父が怒るのもわかる。

「生きて帰ってこれたんです、それだけで今は十分ですよ」
母が涙ながらに抱きしめてきた。

温かい。

「はい。そうですね」
母の背中に手を回し、温もりを余すことなく感じる。


翌日、大会議に出席するように言われていた。
迎えの車は、大人数のため上から埋まっていき
2級の私にはなかったので自分で移動する。

最後の任務地での報告書を作成しながら電車に揺られる。
まぎれもなく日本に居ると実感する。

時間通りの電車がこんなにもストレスがないとは。
ありがとう、日本で働く方々。

高専だって9年ぶりで緊張してしまう。
今は誰がどうなっていて、どういう派閥なのかは父からあらかた聞いた。

大会議室に入ると、半数がすでに集まっているようだった。
見渡す限り硝子はいない。

若者が後ろに座るのはどうかと思い、中腹の空席に腰かける。
先ほどの報告書を仕上げるころには、全体会議が始まることだった。

教壇には、学長と悟が立っている。
ドクン。

どうか、私に気が付かないで。
どうか、私が胸を高鳴らせていることなど、誰も気が付かないで。



何度もあなたを忘れようとしてるのに、やっと忘れかけてたのに
(9年ぶりにこの目にあなたの姿を映すとは)



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