短編置き場

□もう望んだって手に入らないってこと
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「百鬼夜行、か」
夏油、何が目的?
学校に現れたとすると、悟目当て?
いや夏油は悟に勝てないことを知っている。

それではないとすると、結界の確認?何のために?
もしくは生徒?わからない。

とにかく、目の前に迫る百鬼夜行を阻止するために全力を尽くそう。


全体会議が終わり、何事もなくその場を離れた。
最後まで硝子が見つからなかった。
きっと、治療中とかで出てきていないんだろう。

この後は上層部との会食を入れられているため会場に足を運ぶ。

海外の調査報告について、離しながら会食なんだとか。
絶対おいしく食べれない。

せっかく、日本に帰ってきたというのに。
美味しいご飯も食べれないのか。

まだ緊張しているのか心臓の心拍数は下がらないままだった。

「海外任務ご苦労だった」
「皇、海外の様子はどうだった」
「はい、全体的に件数が多くなってきています。
災害地はやはり4級レベルが充満していました。
そこに1級レベルが居たりもしましたが何とかなりました」
「昇級も視野に入れておるよ」
「ありがとうございます」

昇級なんてちらつかせるだけで、実際に上がることなんてないだろう。
嬉しくもない乾杯であいさつ回りをして、席についた。
そのころにはすでにほとんどのコース料理が運ばれていた。

私が海外を駆けずり回っている間にも、会食と称して昼間から酒を
のんでいたであろう上層部のジジイたちに怒りがわいてくる。
この人たちに何を言っても、自分の首を絞めるだけだと怒りを収める。
運び込まれていた食事を、流し込んでいった。
やっぱり、味なんてしなかった。

昨日、実家で食べたごはんが恋しい。


「五条、ようやく婚約式するんだってね」
「あー、まあ、はい」
「そう照れるな」
「いやー照れてはないんですけど」
「橋本家だろう、美人と聞いたが」
「まあ、はい」

会食後に学長となった夜蛾先生に挨拶をしておこうと学長室まで行ったが不在にしていた。
それもそうか。百鬼夜行に備えて準備があるだろう。

残念だけど仕方がない。しばらくは日本にいるだろうから、改めてあいさつしよう。
硝子にも会いたいし、保健室に足を延ばしているきだった。

角を曲がろうとすると、背が二つ見えてとっさに角に身を隠す。
片方は、恋い焦がれる背中だった。
上層部の一人と悟が話しているのが聞こえてくる。

父から、悟は婚約式をまだ先のばしにしていると聞いていた。
父はなんとなく私と悟の間に何かあったと感づいている。

だから、わざわざ私にこの話をしてきたんだろう。
すでに、聞いていたことだから落ち着けと必死に言い聞かせているうちに
二人はどこか行っていた。

本当にもう、手の届かない人になってしまうんだ。

窓の外を見ると、婚約者だろうか。
和装の小柄で美しい女性が、悟の方に小走りで向かっているのが見える。

苦しい。胸が痛い。
ズンと重くのしかかる目の前の現実に耐え切れない。

やっぱり私、この先もずっと海外任務がいいかもしれない。
こんな現実に耐え切れない。



もう望んだって手に入らないってこと

(そんなこと、分かりきっていた)



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