書いたもの

□となり
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一緒に胸を張って歩くために。


となり

彼らを葬ると決めた時、ユーリに迷いはあった。
自分がしたことは正しいとは言い切れない、寧ろ殺された彼らと同じだと非難する者がいるかもしれない。ユーリとてそう考えなかったわけではなかった。
それでもユーリにとって彼らを葬ることは誰かがやらなければならないことであり、それを自分でやった。それだけであった。
ラゴウ、キュモールを殺めたことに、ユーリは後悔していない。たとえ彼らの親族に仇討ちをされたとしても文句は言えない、言うつもりもない。

ラゴウ、キュモールの身内で悲しむ者はいるだろうが、自分の身の回りには悲しみ、傷つく者はいないだろう。このことはユーリの中で過ぎ去ったこと、終わったことになろうとしていた。

ジュディスが一行から離脱し、ダングレストではユーリがドン・ホワイトホースの介錯をして。ほんの数日の間に大きな出来事が多すぎた。ドンに憧れ、凛々の明星の首領であるカロルにはこの二つの出来事は重くのしかかった。
そしてカロルにはもう一つ、ユーリがしたこともあった。
カロル自身や一行の誰かに直接危害を加えたわけではない、ユーリに葬られた者達の遺族でもない。なのにカロルは冷たく、悲しい気持ちでいっぱいだった。
――ユーリの方がもっともっと悲しいはずなのに
人を殺めたことのないカロルには、人を殺めた者の気持ちは分からない。それでもカロルはユーリがきっと悲しい思いをしていると感じていた。そしてカロル自身も辛く、悲しい。

辛さや悲しさに順番はつけられない、だがカロルにはユーリのことがとても暗く、深刻なことだった。
――辛い、悲しい・・・僕が今のユーリに感じているのはそれだけかな
更に悪い方へと考えてしまうのは夜中に船に揺られているからだろうか、それとも。

「何か考え事?風邪引くわよ少年・・・へっくし」
「レイヴンもね・・・見張りしてるんだよ」
「へーそう、てっきり青年のことで悩んでるのかと思った」
「な、なんで」
「ぶつぶつ独り言言ってたじゃない、もしかして無意識?考え事口に出ちゃうタイプ?」
「うー・・・そう、なのかも」
いつも人に考えを当てられるのはそういうことなのだろうか、とカロルは口元を押さえた。レイヴンが風が冷たいなどと言いながらカロルに近づいた。
「どうしたもんかねぇ、あの二人」
「・・・ユーリとジュディスのこと?」
「そ。少年は二人がしたことを許せる?」
「え?・・・ユーリは悪いことをしてた人達を自分でっていう理由があって、きっとジュディスにも何か理由がある。だから・・・その」
「許す・・・って言い切れないのは、ビミョーってことね」
少年は若くして大変だねぇ、と気楽そうに話すレイヴンの言葉がカロルの悩みを増やした。
許せるのか否か。
レイヴンに言われるまでは、カロルは二人を許すことを前提にユーリが人を殺めた時の気持ちを考えていた。その悩みにのしかかり、二人を許して良いものかという悩み。


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