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言葉と態度で。(正臣
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『…紀田…は…』

私の彼氏である紀田正臣は、いつものように校門で私を待っていて、それから手を繋いで私を家まで送ってくれる。

恋人になったのは、つい一ヶ月前。紀田からの告白だった。

━見た時から一目惚れでした。俺と結婚を前提にお付き合いして下さい。━


いつもの彼とは想像も出来ない真面目な言葉。
そのせいか、真摯に言ってくれてるのが伝わって。
私も紀田の事好きだったし、自分でよければ。とOKをだした。

それから、彼はナンパをやめて私との時間に割いてくれるようになった。

凄く嬉しくて、舞い上がりそうになる。(実際舞い上がっているのだが。)
だけどただ一つ。慣れないものがある。
それは━…。
























「正臣。前に言ったろ?名前で呼んでくれって。」


『………ま…正臣は…さ。』


そう。下の名前で呼ぶ事。私は、男子の友達には上の名前で呼ぶかあだ名で呼んでいる。(そもそも私に男子友達と言えるのは片手で数えられる程度だが。)

そんな習慣がついてしまい…というか気恥ずかしくてなかなか下の名前で呼ぶのに慣れていなかった。


「おう。なんだ?」


それでもま…正臣は屈託のない笑顔を私に向けてくれる。
こんな奥手な、私に。

だからこそ、こんな私でいいのかとも思う。

どうして私なんだろうかと考える日々が続いている。
だが、いつも口に出せずに黙ってしまう。
そんな自分が恨めしく思う。

『………なんでもない。』
ほら今だってそう。
また私は、自分が思っている事を相手に伝えられない。だから友達が少ないんだ。
私は人とスキンシップを取るのが苦手でいつも人と話すと縮こまってしまう。

そんな自分が凄く嫌い。

容姿だって、平均より下だと思っている。
顔も童顔だし、身長だって低い。足も短いし。
む…胸も大してない。

地味か派手かどちらかと言えば確実に、地味に入るような部類の私が、なぜ……正臣が告白してきてくれたのか。
いまだに理由も教えてくれない。

もしかしたらほんの気まぐれだったのかもしれない。

私の反応を見て遊んでるんだきっと。


正臣は絶対にそんな事する人ではないとわかっていても、ネガティブな思考は始まってしまうと止まらない。
うっすらと私の目に涙が浮かぶ。
正臣にバレないように顔を下に向けて、嗚咽が漏れないよう唇を噛む。
そんな仕草を当然のように不思議に思った正臣が私の顔を覗き込む。


「……おい、どうかした…!?」

正臣が目を丸くして驚いている。
でも、それは一瞬で、正臣は私の手を引いて何処かに歩き出した。

正臣の手には少しだけ力が込められていた。




































連れて来られたのは、私の家の近くの公園。
ベンチがちょうど空いていたので座る事になった。
正臣が座ったはしっこの方に私は座る。

正臣は苦笑しながら、こっちおいで。とでも言うように、自分の隣をトントンと叩いていた。
しばらく迷った後、ちょこちょこと正臣の隣に座る。

しばらくの沈黙があった後、正臣は口を開いた。

「…さっきはどうしたんだよ。」


『……………、』

言えない。というか言いたくない。
これでもしさっきの事が本当だったら。

━お前なんかただの遊び。━

なんて言われた日には、もう二度と男の人と付き合う事はないと思う。

そんな事を想像してしまう自分に腹が立つ。
正臣はそんな事絶対にしないってわかってるのに。
でも、拭えない不安がどっと押し寄せてくる。


「……………」

正臣は私の言葉を待っているかのように、私の事をじっと見つめている。


私は意を決して、今まで思っていた事を全部口にする事にした。

私を選んだ理由はなんなのか、自分に自信がないからどうしても不安になる。自分は正臣に釣り合わないと思っている。などなど。

全て口にした後、正臣俯きはしばらく黙っていたが、やがて顔を上げ重い口を開いた。
そして、ただ一言。

「心配にさせてごめん。」

と。


『こ…ここで謝る必要はないよ!!悪いのは全部私だってわかってるから…ってきゃっ!!』

私が悲鳴をあげた理由が、正臣が私に抱きついて来たから。

正臣の、細い髪の毛が私の首筋や、耳に当たりくすぐったい。
だからといって抵抗する気はなかった。

正臣の香水の匂いが心地好くて、なんだか今まで考えていた事がバカみたいに思えてくる。


しばらく正臣は喋らなかったが、やがてポツリポツリと喋ってくれた。



━━最初にお前を見たのは、俺が教科書を学校に忘れて珍しく取りに帰った時。帝人の教室を見たら、女の子が一人で掃除してて。窓とか机とか。その時、俺見とれててさ。なんだか目が離せなくなって。かといって声もかけられなくて。━━

あれは紀田正臣一生の不覚だ。と呟いていた。

━━それからさ、時々彼女が皆のいない教室とか掃除したりしてるのを見て、あぁこの子はすごく優しい子なんだ。って思ったら急に胸がドキドキしてさ。━━

彼女を意識するようになったんだよ。

と、正臣は言っていた。
チラッと正臣に視線を移そうとしたが、見んな。と言われ、頭を軽く叩かれた。

というか、背中に目でもついているんだろうか。


そんな私の考えはよそに正臣は言葉を続ける。

━━ある時、彼女を探そうと思って昼休み探し回ったら、どこからかすすり泣く声が聞こえて。屋上の方から声がするから行ってみたら一人の女の子が泣いてて。俺がどうしたの?って話しかけたら、彼女はビクッって体震わせてさ。こっちを上目遣いで見つめてて。そん時すげぇ心臓が脈打った気がしてさ。その時確信したんだよな。あぁ、俺この子事好きなんだって。━━


話が終わったらしく正臣が私から離れる。
その顔は凄く赤くなっていて。


「だから…えーっと…そうだな。溺愛?してるんだよ俺は。こう言葉に出来ないけど、お前の、そのちっちゃい身長も、その童顔も、性格も全部全部愛してんの!!わかった?」


いつものようなチャラさや、かと言って真面目な声でもなく、あくまでも私にしか見せてくれない優しい声。

その声にまた涙が溢れ今度は私から抱きついた。



【あなたの事を愛してます。】


もう迷わない。

あなたの言葉と、態度が示してくれるから。

END


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