黒子
□鬼ごっこ
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近くにあった図書室に逃げ込んだ。
でも逃げ切れない。
もう、逃げられない。
走りすぎて、肺が変な音を鳴らす。
ひゅう
ひゅう
ぜえ
ぜえ
はあ
はあ
止めてよ、こんなにうるさくしてたら居場所がバレちゃう。
やつが私に追いつけないはずがない。
きっとこうやって楽しんでるんだ。
逃げる私を追うのを。
「なまえ、どこにいるんだ?」
廊下からやつの声が聞こえる。
そして、
図書室に入ってくる。
「ここにいるんだろ?全く…馬鹿ななまえが考えそうなことだよ。いくらたくさん本棚があるからってすぐ見つかってしまうだろう?」
かつ、かつ。
足音が近づく。
夜の学校をずっと走り回ってたから…もう、足が動かない。
「僕の鳥籠から出ちゃダメだって言ったじゃないか」
やつは楽しそうに笑う。
本当に最低な男。
鳥籠の鍵を開けたのはあなたでしょ?
罠に引っかかった私も馬鹿だけど。
這ってでも出ないと。
捕まれば…全部元に戻るどころか、もっと酷いことになりかねない。
私は本棚に寄りかかりながら立ち上がり、忍び足で出口へ向かおうとした。
このまま、どこへ隠れよう。
この調子なら一
階の昇降口まで走っていくことができるかもしれない。
外に出てしまえばこちらのものだ。
もう…こんな鬼ごっこは終わり。
最後の力でやっと鬼から解放される。
足がもつれる。
震える。
恐怖。
でも、本棚の多いこの図書室、振り切るなら今だ。
扉が見える。今!
「そろそろ鬼ごっこも飽きたな」
扉が遠ざかった。
後ろからたくましい腕に捕らわれたのだ。
「つかまえた。」
背筋が凍る。いや、足の先から頭のてっぺんまで、まるで蛇にしめられなぶられるかのように。
「さて、僕から逃げたんだ。どんな酷いことをしても君は何も言えないね」
振り返れば、赤い髪は月明かりに濡れていて、いやらしいくらい口角はあがっていた。
美しい。そう思った私こそ、酷く愚かなのだろう。
『鬼ごっこ』
(愛しい金糸雀は鳥籠の中)
12/05/14
長編でやろうと思ってるネタ