黒子

□恐怖依存
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重い…重い一撃が私の身体に炸裂した。

「…痛いのか?」


霞む視界の中に大きく男の顔が覗き込んでくる。腹部の痛みのせいで軽減されていたのだろう。前髪を掴まれていることに気付かなかった。

「おい、痛かったかって聞いてんだけど。」

男は目の前で拳を作った。慌てて首を縦に振る。げほっ。口の中が鉄の味だ。…やばい、血吐いた。

「ふはっ、ざまーねえな。カワイソウに」

ちっともそんなこと思ってないくせに。男はニタニタと卑下た笑みを浮かべている。その鼻に噛みついてやりたかった。実際にそうしたら、それこそどうなるか分かったものではないが。

「苦しいか?辛いか?…いや、聞くまでもねーな。辛そうだ。さて、アンタはどうしてこんな辛い思いをしてる?自分で、理由は分かってるんだろうな」

私は男を睨んだ。精一杯に。…私は、私は自分で悪いことをしたとは思っていない。私は正しいことをした。私は正しいことをしたのだ。だからこれは理不尽だ。しかしそれを誰かに伝える手段もない。私はもはや目の前の男、花宮真を睨むしか道はなかった。

「なぁ、なまえ。アンタは何だ?」

「………。」

「そんなにして欲しいなら次は骨を折るぞ。答えろ」

「私、は…」

激痛で声が出せなかった。見れば身体はどこもかしこも痣だらけだった。こんなに殴られたり蹴られたりすることって一生にあるのかな。私の意識はもはや朦朧だった。

「言えねえのか?ならオレが教えてやるよ」

花宮は私の前髪を持って床に顔を押し付けた。もはや痛みなどどうでもいい。屈してはいけない。屈しないことこそが私の守るべき最後のものなのだ。


「お前は、霧崎第一高校男子バスケ部のマネージャーだ。」

花宮はこれでもかと言うほど顔を近づけた。…顔が歪んでいる。不機嫌なのだ。しかし何故か私は、この顔に私自身が介入して形作られていることによく分からない満足感を覚えていた。

「次他の誰かにオレたちのことをしゃべったら、これだけで済むと思うなよ」

花宮は私の口元から垂れた血を舐めとった。蛇に這われた気分だ。気持ちが悪い。
「証拠の写真は全部オレが回収した。…アンタはオレのもんだ。どこにも逃げられない」

花宮は荒々しく私に口づけた。相手の唾液なのか私の血なのか分からなかったが、ただ、誰もいない部室には淫靡な音がしばらく罪を揉むように虚しく響いていた。





『恐怖依存』

(悪魔に恋してたのは、私)





12/07/23

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