黒子
□逃げられない
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だってそれはことごとく私たちの希望を打ち抜いたから。
「嫌い」
「せやろ、知ってる」
「大嫌い」
「せやけど、そないに邪険にする必要もないんとちゃう?」
「死んじゃえ」
「怒らせたいんか?」
いつもへらへらしてて、何か企んでて、私はこの男が苦手だった。
『だった』じゃなくて、今も苦手かも。何考えてるか分かんない。…今言った「嫌い」も、心からの言葉ではないと思っていても、深層意識では結構本格的に彼のことが嫌いなのかもしれない。
「あんたは…私の何?」
「恋人とちゃうんか?」
「死ね」
「おー、怖い怖い」
「中学のときの先輩と後輩だっただけなのに…高校生になってまで私に関わろうとしないで」
せっかく、離れられたのに。
「せやな、なまえは中学ん時のかわいかわい後輩でありバスケ部のマネージャーや」
彼は顔をぐんと近づけた。一歩下がるとそこは壁で、追い詰められた気がして寒気がした。
「花宮もお前も敬語使わへん。ワシの教育が悪いんやろか」
「あんたに絡まれるんだったら花宮先輩に絡まれた方がよかった」
「…せやったな。ただしお前は花宮には敬語を使うてたな」
彼は私の髪を一房取った。近い。動こうにも、動けない。纏ってた空気が…変わった。
「花宮も大抵出来てる人間とちゃうで?」
「あんたには、」
「せや、みょうじ。お前は何や」
今吉祥一の顔は目と鼻の先に合った。いつの間にかゴツゴツとした男らしい手が私の頭に乗っていて、薄く開かれた目が私を覗き込むように光っていた。
「私は」
「誠凛の…マネージャー、やな?」
息ができない。喉に何かがつまってる。おかしいな、『恐怖』だ。
「そして誠凛は?」
「言わないで」
「辛いなぁ、分かるで?」
「だったらやめて」
「ワシらのチームに負けた」
「………っ」
「悔しくてしゃーないなぁ。あんなに嫌悪しとったワシにお前は負けたんや」
「次は、…負けないし」
「どうやろか。あないにボロ負けしとったやないか」
「もう構わないで!構わないでよ!」
その瞬間に今吉は噛みつくようにキスをした。貪欲に求め、胸が苦しくなった。
少し経てば離れ、熱い吐息が耳をなぞった。
「一個教えたる。なまえをいじめてるとき、楽しくて楽しくてしゃーないんや」
『逃げられない』
(悟った。もう適わない)
12/08/15
花宮の小説と似せてみた。OTHER sideな感じでお楽しみください