黒子
□狼と黒真珠
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その部屋は薄暗く、空気がこもってるみたいだった。淀んだ空気が重くのしかかった。
「そんな目で見ないでくれ」
オレの下のなまえは眉根を寄せわざとらしく目を逸らした。
「そうやって表面上は優しく取り繕って微笑んどきゃなんとかなると思ってる」
「手厳しいね」
「彼女でもない私をベッドに押し倒してさ、優しい男がする訳がない」
「優しい男だなんてのはキミが勝手に勘違いしていたことだ。オレはてっきりキミは最初からオレが狼だってこと見抜いてたと思ったよ」
「…見抜いてた。みんなが言ってた。氷室先輩は優しい。かっこいい。王子様。パーフェクト。ばかじゃん?何かに飢えてさまよい歩く獣にしか見えないから」
「そうだ。キミだけはオレを見る目が違ってた」
そしてその目がオレは気に入らない。
「キミだけがオレを狼だと警戒して近づかなかった。キミはかわいい賢いうさぎだ」
「やめてよ、これから食べられちゃうみたい」
「…ふふっ」
「…………。」
彼女はオレを睨んでいた。抵抗はもはやしていなかった。別にしたらしたでよいと思っていた。
片方の腕でなまえの両腕を頭の上でホールドしている。もう片方の手でなまえの頬を撫でた
「……食べるんだよ」
なまえが息を飲んだのを感じた。触れている肌が小刻みに震える。
「ねえ先輩知ってる?」
オレはなまえにその言葉の続きを言わせたくなかった。
恐怖に震える唇に噛みつき、まるで動物のような、理性のかけらもない激しいキスで咥内を犯した。
顔をあげれば、濡れた真っ黒な瞳と目があった。
『狼と黒真珠』
(お伽噺ではね、狼はいつも悪者なんだよ)
14/02/03