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□遊騎の誕生日
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「…………」
「なあなあ時雨ー」
新聞ゆ読む時雨の首筋に、頭をのせる遊騎に、時雨はほとほと困っていた。
「何だ」
そして、今日遊騎がやけにしつこい理由もしっかり分かっていた。(だから困っていたのだ。)
「今日俺の誕生日やで〜」
そう、今日は5月5日子どもの日。遊騎の誕生日である。
なんというか、実に遊騎らしい日にちではないか。上条明峰先生も中々だ、と作者は感心して……と、それはどうでもよい。話がそれた。
時雨は困っていた。どうしたものかと一週間前から思案にくれていたが、どうにもいい案が浮かばない。
「時雨〜」
「…………」
来た。
「何かちょーだい」
↑そうそうそう。これこれこれなのである。
時雨は珍しくうーんと生返事をした。
何も用意していなかった。
いや、別に薄情者という訳でもなく、流石に……そのう…幼馴染みの一線を越えた関係の片割れとして、相手の誕生日に何もあげないほど時雨はヒドイニンゲンではないのだ。
初めは、
(遊騎がいつももっているあの変なぬいぐるみ…にゃん…吉…?だっけ…をあげればいいか。)
↑※にゃんまるです。
ぐらいにしか考えていなかったんだが、
丁度一週間前―――
「ここが俗に言うおもちゃ屋さんか…にゃん吉グッズはあるんだろうな。」
↑※にゃんまるです。
(あっ…白いぬいぐるみ発見、あれがそうだろう。)
「遊騎君はきっとこれが好きなのだ♪」
(!?)
「そうだナ、桜チャン。俺もにゃんまるグッズにするワ」
「くくく…遊騎の奴、にゃんまる好きだからなあ。」
「ぜひ、ラッピングは私の荒縄d「リボンにして下さい。」
わいやわいや。
(先を越された上に、キャラクター名を間違っていた…)
ずーん。
「おや、あれは、時雨ではないか?」
「ホントだー時雨クンも遊騎に誕生日プレゼント?何かイガイー」
「せっかくだから、呼ぶのだ。おーい時雨ー」
ダダダダダダダアッ!!
「行ってしまったのだ…」
――――――
――――――――
(恋人としてその他大勢と同じなのは不味いだろう…どうしようか。)
↑そして時は流れ、現在に至る。
時雨はまたうーんと唸った。
困った。
「なあ時雨〜」
「すまない、遊騎。」
時雨は読んでいた(フリ)新聞を床に置き、振り返る。
つまり、時雨の首筋に頭をのせる遊騎と、死ぬほど顔が近い。
時雨の頬が朱に染まる。
「…その、贈り物、が、まだ…」
恥ずかしいのと、顔が近いのとで、うまく喋れない時雨。
遊騎はじっとみつめていた。
そして、なにも言わず、時雨にくちづける。
ちょっと触れるだけのキスだったが、時雨の動揺っぷりは記録的だった。
「な、ななな、何を……」
「何か時雨、可愛かったから。」
「かわっ…人の話を聞け!!」
ずどーんっと、遊騎を突き飛ばす。遊騎は不意をつかれて地面をごろごろと転がった。
そして壁に直撃。
「……痛い。何するねん。」
じんじん。
「ばっ…当たり前だ!!人の話をしっかりと聞け!!」
立ち上がり、肩を怒らせながら叫ぶ時雨に、遊騎はタンコブ(王子に殴られるのと同等に痛かったらしい。)を擦るのをやめて、キョトンとした。
「話なら聞いてたで。」
「…………」
「でも、誕生日プレゼントなら、今貰ったし。」
「……は」
時雨はポカンとあっけに取られる。
「何もあげてないぞ。」
「貰ったし。時雨の唇。」
「…………」
一度死ねばいいと思った。顔が真っ赤になるようなセリフを平気でいうなんて。
大体そんなものですむなら、今週一週間の苦労はなんだったんだ。全て無駄ではないか。
そうつたえると、遊騎は少し考え込むようにだまりこみ、しばらくしてから顔をあげ、こう言った。
「そうやな。足りへんわ。」
当たり前だ。
「じゃあちょうだい。」
遊騎は立ち上がり、時雨ににじりよる。
「いや、だから何も用意していないんだ…」
やっぱり話を聞いていない恋人。二回位死ねばいいと思った。
「だから、時雨をちょうだい。」
「………!?」
時雨は聞き捨てならない一言に、バッと顔をあげた。
そしてうつむいていたからきづかなかったが、遊騎が目の前にいることが判明した。
「………何言って。」
腕を捕まれる。
「……ちょ、落ち着け…ッう。」
捕まれた両腕を、物凄い勢いで下に引っ張られ、時雨はどさりとしりもちをつく。
痛い。
「大体そんなもの貰ってどうするつッもり、だ…!」
時雨の問い掛けに、遊騎は時雨の耳をはむはむしながら呟く。
「ん、食べる。」
ますます不味いだろうが!!
何度でも死ねばいいと思った。
「………ッ……ゆっ…き!」
「時雨、可愛い。」
結局時雨は美味しく頂かれることになったのである。
「……ゆ、遊…ッ…騎」
「ん」
「た、誕生日、おッめで…とう。」