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□やっぱり子供
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閉成学院高校。
生徒会室。
狭いへやの中に、現在2人の人間がいた。
「………タルー」
「………」
刻は机にうつ伏せになる。貧乏揺すりが彼の倦怠を語っていた。
整った顔立ちをつまらなさそうにし、机の木目を指でなぞる。
閉成学院高校は表向き、いくら偏差値がとてつもなく高いエリート学校だとはいえ、普通の高校だ。影で日本政府のエデンと繋がっているなど、当然知られてはいない。そして、知られてはならない。
つまりどういうことかと言うと、仮にも学校の生徒として一般の間に通っている者達は、普通の生徒らしくしていなければならないのである。
だから冴親も高津あおばも、授業真っ只中のこの時間帯は、大人しく授業を受けていた。
ちなみに刻はさも当たり前のように生徒会室にいるが、彼の場合深い事情があるわけではなく、単にサボっているだけである。
本人談『オレは普段からサボってるカラ、逆に授業に出る方が不自然なノ。』
↑ということらしい。
恐らくただ単にめんどくさいのだろう。
そして裏を返せば、この学校に在籍していない人間は、あまりうごきまわってはいけないのだった。
勿論、学校の外側に出さえすれば何をしても良い訳で、何を考えているか分からない平家と自由奔放な遊騎は朝からいない。
日和は探検と言ってさっき出掛けていった。
つまり、今生徒会室にいるのは刻ともうひとり、時雨だけなのであった。
刻は自らサボリの道を選んだとは言え、溜め息をつく。
(一分がなげえ…)
刻は時雨が苦手だった。
自分とは性格が合わないな、と一目で思うほど。
だから時雨が向かい側でいくら涼しい顔でおやつを食べていようと、刻はどうしてもなにかしら引っ掛かって…
―――待って今違和感あったダロ!!
刻は何気なく見ていた時雨に再度視線を移し、凝視する。
もむもむ。
あの時雨が、食事中だ、と……?( ; ゜Д゜)
しかも今は10時半を指すわけで。
時間的に、完璧なおやつだった。
しかも。
その手元をよくみれば、
オイオイオイオイオイ…
おはぎ。
「………ぶっ…くく。」
もうギブ。
刻は自分の腕の中に顔を埋める。
(キャラ崩壊にも程があんだロ!……しかも両手でおはぎもつとか、女子カヨ!!そもそもおはぎって…)
プルプルと震える刻を怪訝そうにみる時雨。
おはぎを食べる手が止まった。
「…………」
もむもむ。
(ヤッヤメロって!!死んじゃうーッ!!)
チラチラと時雨をみやりながら、刻は声に出さずに笑うのに必死であった。
数分後。
「………」
もむもむ。
(コイツ…食うの遅ェな…)
笑いは収まったが、刻は時雨に釘付けであった。
さすがに居心地が悪かったのか、時雨が刻を一瞥して溜め息をつく。
「何だ。」
不機嫌そうな声に、刻は苦笑する。
「別にーアンタも物食うンダナア…みたいな?」
「意味が分からないな」
時雨は眉をひそめる。
だってさ。
いつもスカシテて嫌な奴だと思ってた奴が、食事なんかするんダゼ?しかも甘い物。
興味もわくっつーの。
「時雨君って、十五だっけ。」
「だとしたら何だ。」
「ガキ」
ピクリ、時雨が顔をあげる。
「身長も低いしサ。」
「何が言いたい。」
別に。ただ単にからかってるだけ。
時雨は怒ってだまりこんでしまう。
おはぎをもむもむしてたべおえると、傍らの新聞を読み始めた。
そして刻はまた笑いそうになってしまう。
急いで食べたためかは知らないが、目の前の子供の頬には、あんこがくっついていた。
(あぁあ〜あ)
「時雨君」
「……」
返事無し。
「ほっぺたにあんこが付いてますヨ?」
「…………!?」
びくりと身を震わせる時雨。
何だか刻は意外に思う。
「ああ〜あ、お子様だナァ。」
「………っ」
新聞がぐしゃりとつぶれた。
時雨はあせあせと自分の頬をまさぐっている。
むちゃくちゃあせっていた。
「……」
ニヤニヤ。
刻はその顔を見て、もっとからかいたくなる。
いつもバカにされてるのもあるし。
「ソコじゃないってば。」
だから刻はテーブルの上に身を乗りだし、時雨の頬を両手で挟んだ。
「ホラ」
そのまま顔を近付け、彼の頬につくあんこを嘗めとる。
相手の思わぬ行動に、時雨は固まった。
刻は悪戯っぽく笑うと時雨に口付け、口内に侵入する。
びっくりして声も出ない時雨の舌の上に甘い物を押し付け、リップ音をわざとたてると、体を引いた。
ポカンとしていた時雨の顔がみるみるうちに真っ赤になってゆく。
そーゆーとこが子供なんだって。
刻は口内の甘い味に顔を綻ばせながら、時雨を見た。
「ごちそうさま。」
「きっ貴様…」
時雨が袖口で口を隠し、モゴモゴ言っている。
口の動きだけで『可愛い』と伝えると、目を白黒させて刻をにらんだ。