dream

□個として見て
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その叫びを聞いて、渋谷荘のみんなが起きた。


ドタドタ。パタパタ。ぴょんぴょん。ざっざ。

あっという間に全員が揃う。


桜が口を開いた。

「お早う、刻君。どうしたのだ?」

「あ、や、びっくりシタ…」

刻は意味のない回答を出し、ごくりと息を飲んだ。


その視線は、先程まで遊騎だと思い込んでいた者に注がれた。

つられて、桜を初め、みんなもそちらを凝視する。


痛いほどの視線の中、それはからだを起こした。


「……たた。」

老婆のように背中をさすり、目に涙を浮かべる。


白い髪。

大きな切れ目。

何かよく分からないところの制服。


女の子…だった。


彼女は自分を見つめる視線に気付き、キョトンとしてから、Σ(´□`;)とする。

「……ん〜なんて言えばいいんだろ。……うん!!お早う。よろしくお願いいたします。コードブレイカーの皆様♪」


「…俺たちを…知ってる?」

何者か得体の知れない少女は、にこりと笑い。



遊騎に抱きついた。



瞬間の出来事だった。

そのあまりの速さに、敵だと勘違いした一同は、攻撃の準備をする。

青い炎を出す大神。

磁力で鉄屑(鋭利)を浮かべる刻。

身体からうねうねと影を出す王子。


場が静まる。


桜がおどおどとして、皆を止めようとする。


「久しぶり。ゆー」


少女が遊騎の肩に、顔を埋め、懐かしむように呟く。



みんなは戸惑いを隠せず、お互いに顔を合わせた。


当の遊騎は。



びっくりしたように、目を見開き、それから掠れた声で言った。

「…お前…耶奈か…?」


知り合い!?


「おいおい…どういうコトだよ遊騎。」


「その子の知り合いなのか…?」

「渋谷荘にまた仲間が増えたのだ!!」

「誰でもいいですから、事情を話してください。」


それぞれがそれぞれに反応をする。




遊騎は、ん、と生返事をして、少女をぎゅうぎゅうと抱きしめ返した。


そして口を開いた。


「こいつ。耶奈やねん」

「それは聞きました。」


「友達。」



「…え」


桜がぽかんとした。


あの遊騎君が、躊躇なく友達と言った。

自分たちはコードブレイカーだから、友達ではない。そう言った遊騎君が。


耶奈と呼ばれた少女を見つめる。

暫くして耶奈は体を離した。


遊騎に微笑み、くるりとみんなを見る。


「こんにちは。耶奈といいます♪今日からここに住むことになりました♪よろしく!!」


「え。ええぇぇええぇえ!?」




刻が二度目の叫びを挙げる。


ぽむぽむ。


やけにはらただしい足音がした。


ふりかえれば着ぐるみ。


渋谷生徒会長が、堂々と立っている。


「やあ。よくきたね。耶奈君。待ってたよ。」









■■■■■■■■■■■





「さあ、事情を説明してもらおうか。」

渋谷荘の食卓。

王子が腕組みをして会長の前に立つ。

眼下に広がる『耶奈を含めたみんなが楽しく食事をしてる光景』とは異なる、危険なオーラが漂う。


「いかにも、いかにも。」

会長は箸を置いて王子を見た。



「彼女は…耶奈君は、遊騎君と同じで、エデンで育ったんだ。」


その言葉に王子は驚愕の表情を見せる。

「遊騎がエデンで…?」

幸い、他の人には聞こえてないようで「へ〜そいつは初耳だナア」

……桜を除く全員が聞いていたようだ。


「いかにも。だが彼女はね、闘うのを拒んだんだ。」


「………」

だまりこむ遊騎。

「いくら優秀でも、つかえなければ意味がない。エデンは耶奈君に×印を付けて廃棄処分にした。」



「それを助けたのが、遊騎君。」


静まり返った場に桜が「ん?」と笑い、みんなを見た。耶奈が「何でもないよ」と両手を顔の前でふる。


ダンッ。


突然激しい音がした。

遊騎が机を叩いたのだ。


「…俺やない。耶奈を救ったのは時雨や。俺はエデンのやつらの足止めで精一杯やった。」


唇を噛みしめ、俯く遊騎。


「……耶奈君の身柄は、二人によって隠された。」

会長が話を続ける。


「……でも。」

3年前、耶奈君は殺されかけた。


「いまはリコードとなった、時雨によってね。」


「…な…」


事態を知らなかったのか、遊騎が顔を挙げた。

「耶奈君は、時雨に殺されかけながらも、自分も攻撃を仕掛けた。」



耶奈が目を細める。


―――
―――――

―――――――

『痛いよ!!時雨!!やめて!』

『大人しく降伏してリコードに入れ』

『何で!?嫌だよ!!離して!』

『ならば殺す。』





ひどいよ…

時雨もゆーも、私大好きだったのに…


ひどい…

ひどいよ…


『ひどいよ時雨!!』


『!?』













「っ…」


「あの時雨を…倒した…?」


「そう。でも、半殺ししたのが不味かった。時雨は今でも、耶奈君を探してる」




「………そんな…」


「わかんない。」

ぽつり。耶奈が声を漏らした。

「何で時雨が私を憎むの。あんなに、仲、良かったのにな。」


「………」


「耶奈君のことは、私が守ることにした。」


中立の立場として、できる限り、守ることにした。


「だからみんな!!仲良くしてあげてね♪」


「なっ…渋谷ァ、テメエは……」


「ふつつか者ですが、よろしくお願いいたします。」


「…お、おう、」


「よくわからんが、耶奈殿は新しい家族なのだ♪」

「まあ、連れてきたモンはしょうがないっショ。部屋は俺の「黙れ。刻。」


「耶奈は、俺がまもったる。」


「……ありがとう。みんな。」

耶奈は柔らかく微笑んだ。
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