黒執事
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ここはノアの方舟サーカス団
世界中を転々と移動しながら公演をしている。
主に出演しているメインキャストのほとんどは幼馴染み、というか同じワークハウス出身
一応わたしもその中の一人なんだけど、皆と違ってわたしは何もできないから裏方をしている。
「はい、できたよ。いってらっしゃい」
「ありがとナマエ」
今日の公演に出演するメンバーのメイクはタガーで終わりなので、片付けに取り掛かろうとすると
「ナマエ」
「ジョーカー!」
本番直前で、此処にいる筈のない人物の登場に驚いた。ちなみに彼はいつも自分でメイクをするので、わたしが彼を見るのはいつも公演後だ。
「どうしたの?」
片付ける手を止めて、テントの入り口にいる彼の方に車椅子ごと体を向けると、彼は手でわたしを制してテントの中に入ってきた。
「先生がナマエのこと呼んどったで」
“先生”とは、色々と訳有りなわたしたち専属のお医者様。ジョーカー達の義肢や義足も作っていて、凄い人だ。彼自身も足を悪くしていて、わたし同様車椅子で生活している。
「先生が?」
わたしは義肢を使っていないので、特別なことがない限り先生と関わることはない。
「急ぎな用でもないみたいやけど」
ナマエに視線を合わせてしゃがむと、ジョーカーはにこっと歯を見せて笑った。
「ほな、いってくるで」
頭をくしゃっと撫でて、ナマエの額にキスをした。
「っ、」
ナマエは赤くなった顔でジョーカーがテントから出て行くのを見送った。