耳を塞いで愛をあげよう
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「ん…?」
それに感づいたのは、アイツが俺の横を通り過ぎたとき。
花みたいなにおいに混じって、煙草のにおいがした。
「なあ、お前兄ちゃんとかおったっけ。」
「え、おらんけど…なんで?」
「いや、別に」
「ふーん…変な財前。」
そう言って笑うソイツからは、やっぱり煙草の匂いがして。なんでかわからんけど俺にとってその事が妙に気がかりになった。
何日かたって、タバコの匂いは少し濃くなってきて、ぼーっとそのこと考えてたら早川に声をかけられた。
「なぁ、今更なんやけど、なんで財前って彼女作らんの?」
「はぁ?」
「いや、あんたモテるし何でかなーおもて。」
「………めんどくさいやろ、そういうの。」
「十代にして、あんた冷めてんなぁ。」
「……ええやろ別に。そういうお前はどうなんや。」
面白そうに笑うのがこっちは面白くなくって同じこと聞いてやった。
「あたし?……あたしは別に、」
なんや、その顔。
想像してた反応とちがって、照れた顔なんかして。そんなの好きな奴おります言ってるのと同じやないか。
「ふーん…………まあ、興味ないからええわ。」
なんやおもろくない。あの反応に苛立っとる自分も、俺に何かを隠すアイツも。
* * * * * * * * * * * *
「天才財前くーん、ちょっとおいでー」
練習中、あの呑気な声が俺を呼ぶ。
「………その呼び方止めてくれませんか」
振り向けば、先生らしからぬ、ふざけた格好のオサムちゃん。おいでおいでと手招きしている。
「まあええから!」
「はぁ。」
「はぁってお前なあ……動く気無いやろ…。しゃーない!俺がそっち行ってやるわ!」
そういって、コートのベンチから立ち上がったオサムちゃんがこっちに歩いてきて、俺の前で止まって、
風だけが、そのまま俺の横通り過ぎたみたいやった。
「あ………。」
気づかなければよかった。
「ん?、なんや?どうかしたか?」
アイツからした香りの正体。
「何で、今まで気づかんかったんやろ…………」
オサムちゃんの煙草のにおいと一緒や。
『2つが繋がった瞬間。』