耳を塞いで愛をあげよう
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「お前の好きな奴って、オサムちゃんやろ?」
「え……、なに言ってるん…?」
一瞬早川が目を少し見開いて、誤魔化すように笑顔を浮かべた。
ほんま嘘つくの下手くそやな。肯定してるようにしか見えない態度、いっそ計算してこんな態度とってくれるなら嫌な女だと思えるのに、そうやないからもっと嫌だ。
「ほんまお前分かりやすすぎやわ。正直言えよ」
「……………なんで、わかったの…」
ほら、やっぱりだ。
「におい。」
「におい…?」
「そ、たばこの匂い。おんなじやった、オサムちゃんと。」
「うそ、!」
あわてて自分の制服のにおいを嗅いで、それでも首をかしげてわからないという顔をするソイツ。
わかってる。においが移って、自分じゃわからなくなってるってことは、そういうことだ。
「寝てんやろ、オサムちゃんと。しかも、1回やないんやろ」
「……直球やな。………否定しても、財前信じてくれへんのやろ?」
「まあ、否定できんやろうからな、信じるもなんもないわ。それに、俺には関係ない」
「みんなに、言わんでくれるん…!?」
「……言って俺の得になることなんもない。めんどいし。」
「ほんまに…?」
「……………。」
「財前…?」
あかん、そんな目したら。
「なあ、早川」
その不安につけこんで、利用してしまいたくなる。
「提案があるんやけど。」
「提案?」
「俺とつき合ってることにしたらどうや?」
「は…?なに言ってるん…?」
「他んやつにバレたら困るやろ、お前。」
少し、口を開きかけたけど、早川は静かに口を閉じた。俺は、ふうっと息を吐いて少し早川に近づいた。でも、コイツは動かず、俺のことを泣きそうな顔でみている。
「勘違いすんなや?俺はお前のこと、助けてやろうとは思っとらん。」
「じゃあ、なんで…?」
なんで、なんて、言えればこんな事、提案するわけないっていうのに。
「そんなの、別にどうでもええやろ。それで?」
「え、?」
「この話に、のるか、のらんか、どっちや」
答えは決まっとる。
「ほんとに…いいの?」
YES以外にコイツが選べないこと。
「決まり、やな。」
当たり前の結果。提案なんて、優しいもんやない。でも、こいつはそのことに気づいてない。
なんでか、その事に腹が立って、
「っ!」
「ーー共犯者としての第一歩や。」
なんの警戒もしていない、その唇を奪ってやった。
コイツにはきっとわからない。このキスの本当の意味なんて。
『初めての、キスの意味。』